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バージン・オービット、空中発射で挑んだ小型衛星市場の開拓と挫折の軌跡

Deep Space 編集部4分で読了

該当する宇宙スキル標準

NO.9 プロジェクト統合マネジメントNO.30 流体制御設計・解析

ポイント解説

  • 1.空中発射方式による地理的制約の解消という技術的理想が、スペースXのライドシェアによる価格破壊と高コストな航空機維持費の板挟みに遭い、商業的自立に失敗した事例である。
  • 2.SPAC上場時の資金調達額が目標の半分以下に留まったことが致命傷となり、2023年1月の打ち上げ失敗からわずか3ヶ月でキャッシュアウトに追い込まれた事実は、宇宙スタートアップにおける資金余力の重要性を物語る。
  • 3.SSS No.12(宇宙輸送システム専門家)として、空中発射方式の技術的優位性と経済的合理性の乖離を分析する上で、同社の破綻プロセスは最重要のケーススタディである。

バージン・オービットの空中発射ロケットLauncherOneの技術、SPAC上場、日本市場(大分県・ANA)との提携、そして2023年の経営破綻に至る全容を解説。

## 企業概要

### 創業の背景とミッション

バージン・オービット(Virgin Orbit)は、2017年にリチャード・ブランソン氏率いるバージン・ギャラクティック(Virgin Galactic)から分社化する形で設立された。同社のミッションは、小型衛星の打ち上げをより柔軟かつ低コストに提供することであった。従来の垂直打ち上げ型ロケットが抱える「射場の確保」や「天候による遅延」という課題を、航空機を用いた空中発射方式によって解決することを目指した。カリフォルニア州ロングビーチを拠点とし、航空宇宙産業のベテランであるダン・ハート氏をCEOに迎えて事業を本格化させた。

### 経営陣

CEOのダン・ハート(Dan Hart)氏は、ボーイング(Boeing)で30年以上のキャリアを積んだ人物である。同氏はボーイングの防衛・宇宙部門で政府系衛星プログラムやミサイル防衛システムの責任者を歴任した。バージン・オービットにおいては、スタートアップの機動力と大手航空宇宙企業の規律を融合させる役割を担った。また、取締役会にはバージン・グループや投資家であるムバダラ・インベストメントの代表が名を連ね、戦略的な意思決定を行っていた。

## コア技術とプロダクト

### 技術概要

バージン・オービットのコア技術は、空中発射型ロケット「ランチャーワン(LauncherOne)」である。これは、改造されたボーイング747-400「コズミック・ガール(Cosmic Girl)」の翼から発射される2段式の液体燃料ロケットである。高度約1万メートルまで航空機で上昇してから切り離すため、大気の最も濃い部分を航空機の揚力で突破できる。これにより、ロケットの燃料効率を高め、地上射場の制約を受けない運用が可能となった。燃料にはRP-1(ケロシン)と液体酸素(LOX)を使用し、自社開発の「ニュートン(Newton)」エンジンを搭載していた。

### プロダクトライン

主力製品は「LauncherOne」打ち上げサービスである。最大積載量は低軌道(LEO)へ500kg、太陽同期軌道(SSO)へ300kgをターゲットとしていた。2021年1月に初の軌道投入成功を記録して以降、計4回の連続成功を収めた。顧客にはNASAや米国国防総省(DoD)のほか、民間衛星オペレーターが含まれていた。また、地上設備を最小限に抑えた移動式地上支援設備(GSE)も開発し、世界各地の空港を宇宙港として活用する構想を推進した。

## 資金調達と投資家

### 調達ラウンド

同社は2021年12月、特別買収目的会社(SPAC)のNextGen Acquisition Corp. IIとの合併を通じてNASDAQ市場に上場した。この際、約2億2800万ドルの資金を調達したが、当初目標としていた4億8300万ドルを大幅に下回った。これは投資家の買い戻し(Redemption)が相次いだことによる。上場前の2017年には、アブダビ政府系のムバダラ・インベストメントから約2億3500万ドルの出資を受けていた。2022年後半からは資金繰りが悪化し、バージン・グループから複数回にわたり計数千万ドルの短期融資(転換社債形式)を受けていたことがSEC提出書類により明らかになっている。

### 主要投資家

筆頭株主はリチャード・ブランソン氏のバージン・グループであり、次いでムバダラ・インベストメントが大きなシェアを占めていた。これらの投資家は、同社の技術が持つ軍事・民間のデュアルユース(軍民両用)の可能性に期待を寄せていた。特にムバダラは、中東における宇宙産業のハブ構築を視野に入れていたとされる。

## 競合環境

### 主要競合

最大の競合は、同じ小型ロケット市場で先行するロケット・ラボ(Rocket Lab)である。ロケット・ラボは「エレクトロン(Electron)」ロケットにより高い打ち上げ頻度と信頼性を確立していた。また、低価格を武器にするアストラ(Astra)や、大型化を目指すファイアフライ・エアロスペース(Firefly Aerospace)も直接的な競合関係にあった。さらに、スペースX(SpaceX)のライドシェア(相乗り)サービスが、小型衛星1機あたりの打ち上げコストを劇的に下げたことが、同社のような専用小型ロケット業者にとって大きな脅威となった。

### 差別化ポイント

垂直打ち上げ型に対する最大の差別化は「即応性」である。特定の射場に縛られないため、敵対行為による射場破壊を想定する国防当局にとって、空中発射は魅力的な選択肢であった。また、赤道直下から極軌道まで、航空機の飛行経路を変えるだけで柔軟に対応できる点も強みであった。しかし、これらの利点は運用コストの高さとトレードオフの関係にあり、最終的には経済合理性の確保が課題となった。

## 日本市場との関連

### 日本拠点・提携

日本市場においては、大分県と2020年4月にパートナーシップを締結した。大分空港を水平型宇宙港として活用し、アジアにおける打ち上げ拠点とする計画であった。2021年10月には、ANAホールディングスと基本合意書を締結。ANAHDは20回分の打ち上げ枠を確保し、国内での地上支援業務やロケット輸送での協力を検討していた。また、スカパーJSATとも衛星打ち上げに関するMOUを締結するなど、日本国内の主要プレーヤーとの接点を急速に拡大していた。

### JAXA・政府との関係

日本政府およびJAXAは、大分空港の宇宙港化を地域活性化および宇宙産業基盤強化の観点から注視していた。内閣府の宇宙戦略室や経済産業省は、水平型宇宙港のガイドライン策定において、バージン・オービットの運用モデルを参考にしていた側面がある。しかし、2023年4月の連邦破産法第11条(チャプター11)の申請により、日本国内での打ち上げ計画は事実上の白紙撤回となった。その後、同社の資産は競合他社に売却され、大分空港の宇宙港計画も再検討を余儀なくされている。

掲載元:Deep Space 編集部 (Virgin Orbit (Legacy) 分析)

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