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米Vast、25年に民間宇宙ステーション打ち上げへ 人工重力で差別化

Deep Space 編集部4分で読了

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NO.9 プロジェクト統合マネジメントNO.32 化学推進(固体燃料)システム設計・解析

ポイント解説

  • 1.NASAの補助金に依存せず、創業者の自己資金で開発スピードを極限まで高める「非伝統的」な宇宙インフラ戦略。
  • 2.2025年のHaven-1打ち上げは、競合他社に先駆けて「ポストISS」の市場を独占する先行者利益を狙った一手である。
  • 3.有人宇宙活動の基盤を担うインフラ企業として、SSS No.04(有人宇宙・インフラ)に分類される最重要プレイヤーである。

米Vast Spaceは、人工重力を備えた民間宇宙ステーションを開発する。2025年にHaven-1を打ち上げ予定。創業者Jed McCaleb氏の自己資金による迅速な開発とSpaceXとの提携が強み。垂直統合型モデルでポストISS市場を狙う。

## 企業概要

### 創業の背景とミッション

Vast Space LLC(以下、Vast)は、2021年に暗号資産分野の先駆者であるJed McCaleb氏によって設立された。同社は、地球低軌道(LEO)における人類の居住圏拡大を目的とし、人工重力を備えた宇宙ステーションの開発を掲げている。国際宇宙ステーション(ISS)の2030年退役を見据え、ポストISS時代の商業インフラを迅速に構築することを目指す。McCaleb氏は、RippleやStellarの創設を通じて得た資産を投じ、外部資金に過度に依存しない独自の開発体制を敷いている。

### 経営陣

創業者兼CEOのJed McCaleb氏は、IT業界での豊富な起業経験を持つ。2023年2月には、宇宙輸送スタートアップのLauncherを買収し、同社の創業者であるMax Haot氏をPresidentとして迎え入れた。Haot氏は、Launcherでの高性能エンジン開発を主導した実績を持ち、Vastのエンジニアリング部門を統括する。また、CTOのAlex Hudson氏は、SpaceXでDragon宇宙船の開発に携わった経歴を持ち、有人宇宙機の安全性と信頼性確保において中心的な役割を果たしている。2024年現在、従業員数は約400名に達し、カリフォルニア州ロングビーチの拠点で開発を加速させている。

## コア技術とプロダクト

### 技術概要

Vastの技術的特徴は、段階的な人工重力の実装にある。無重力環境での長期滞在は、筋肉の萎縮や骨密度の低下など人体に深刻な影響を及ぼす。同社は、ステーション全体を回転させることで遠心力を生み出し、地球と同等の重力を再現する構想を持つ。初期段階では単一モジュールの無重力ステーションから開始し、将来的に複数のモジュールを連結した大型回転構造体へと移行する計画である。また、Launcherから継承した液体ロケットエンジン「E-2」の技術を応用し、ステーションの軌道維持や姿勢制御に必要な推進系を内製化している。

### プロダクトライン

主力製品は、世界初の商業用宇宙ステーションを目指す「Haven-1」である。Haven-1は、SpaceXのFalcon 9ロケットで打ち上げ可能なサイズに設計されており、内部容積は約70立方メートル。SpaceXのDragon宇宙船とドッキングすることで、4名の乗組員が最大30日間滞在できる。ステーション内では、微小重力環境を利用した科学実験や製造、さらには宇宙旅行者向けの滞在サービスを提供する予定である。また、Launcherから引き継いだ衛星プラットフォーム「Orbiter」は、軌道上でのデモンストレーションやペイロード輸送の手段として既に運用実績を持つ。

## 資金調達と投資家

### 調達ラウンド

Vastは、一般的なベンチャーキャピタル(VC)からの大規模な資金調達ラウンドを公表していない。これは、創業者であるJed McCaleb氏が個人的に開発資金を全額拠出しているためである。McCaleb氏は、Haven-1の打ち上げと初期運用に必要な資金を確保していると明言している。2023年のLauncher買収も、この自己資金を背景とした戦略的な投資の一環である。外部の干渉を受けにくい資金構造により、NASAの選定プロセスを待たずに独自のスケジュールで開発を進めることが可能となっている。

### 主要投資家

実質的な唯一の主要投資家はJed McCaleb氏である。同氏は、暗号資産Rippleの創設時の保有分を売却することで多額の資金を得ており、これを宇宙産業への「インパクト投資」として位置づけている。この資金提供モデルは、Blue Originに対するジェフ・ベゾス氏の関与に近い形態であるが、Vastはより迅速な市場投入(Time-to-Market)を重視している点が異なる。

## 競合環境

### 主要競合

Vastの主な競合には、NASAの商業低軌道開発(CLD)プログラムに採択されている企業群が挙げられる。具体的には、Axiom Space、Blue Origin(Orbital Reef)、Voyager Space(Starlab)の3陣営である。これらの企業はNASAからの資金援助を受け、ISSの直接的な後継機を開発している。

### 差別化ポイント

Vastの差別化ポイントは「スピード」と「人工重力」である。競合他社が2020年代後半から2030年代の稼働を目指す中、Vastは2025年のHaven-1打ち上げを目標に掲げている。これは、既存のFalcon 9とDragonという実績ある輸送手段に最適化した設計を採用したことによる。また、他社が主に無重力環境の提供に留まる一方、Vastは人工重力の実現をロードマップの核に据えており、火星探査など将来の深宇宙探査に向けた人体への影響研究において、独自の価値を提供できる立場にある。

## 日本市場との関連

### 日本拠点・提携

現在、Vastは日本国内に拠点を持たず、日本企業との直接的な資本提携も公表されていない。しかし、同社が提供するHaven-1の利用枠については、世界中の政府機関や民間企業に開放される方針である。

### JAXA・政府との関係

JAXA(宇宙航空研究開発機構)との直接的な関係は現時点では確認されていない。しかし、日本政府はISS退役後のLEO活動の継続を方針として掲げており、日本の宇宙実験棟「きぼう」の資産や知見を継承する先として、Vastのような民間ステーションが将来的な選択肢に入る可能性がある。VastのPresidentであるMax Haot氏は、国際的な顧客獲得に意欲を示しており、今後、日本の研究機関や民間企業との接点が生じる可能性は高い。

掲載元:Deep Space 編集部 (Vast 分析)

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