スタートアップ

米モメンタス、水推進技術による軌道投入支援と経営再建の現状

Deep Space 編集部4分で読了

該当する宇宙スキル標準

NO.9 プロジェクト統合マネジメントNO.30 流体制御設計・解析

ポイント解説

  • 1.水推進という物理的制約の少ない技術を核に、宇宙輸送の「ラストマイル」を標準化しようとする試みである。
  • 2.2021年の上場時キャッシュ約2.5億ドルに対し、度重なる設計変更とガバナンス対応でキャッシュバーンが加速し、現在は財務基盤の再構築が急務となっている。
  • 3.防衛・安全保障のスペシャリストが経営トップに就くことで、技術ベンチャーから安全保障インフラ企業への脱皮を図るSSS No.12の典型例である。

宇宙スタートアップMomentus(モメンタス)の技術、財務、競合状況を解説。水推進システムMETの優位性と、NASDAQ上場後の経営再建、最新の事業動向を網羅。

## 企業概要

### 創業の背景とミッション

モメンタス(Momentus Inc.)は2017年、ロシア出身の起業家ミハイル・ココリッチ(Mikhail Kokorich)らにより設立された。同社は、宇宙空間における「ラストマイル輸送」の実現をミッションに掲げている。ロケットによる打ち上げは、通常、主衛星の都合に合わせた軌道に限定される。モメンタスは、ロケットから切り離された後の衛星を、顧客が希望する特定の軌道まで運ぶ軌道上輸送機(OTV: Orbital Transfer Vehicle)を開発している。

創業当初から、水を推進剤として利用する革新的な推進システムの商用化を目指した。これにより、従来の毒性のある推進剤(ヒドラジン等)に伴うコストとリスクを排除し、宇宙輸送の民主化を加速させることを狙いとした。しかし、創業者の国籍に起因する米政府の安全保障上の懸念により、経営体制の抜本的な見直しを余儀なくされた経緯を持つ。

### 経営陣

現在の経営陣は、ガバナンスの強化と信頼回復を目的としたメンバーで構成されている。最高経営責任者(CEO)のジョン・ルード(John Rood)は、元米国防次官(政策担当)を務めた人物であり、ロッキード・マーティンやレイセオンでの幹部経験も有する。国家安全保障と防衛産業における深い知見を活かし、米政府機関との関係再構築を主導している。

## コア技術とプロダクト

### 技術概要

モメンタスのコア技術は、マイクロ波電熱推進(MET: Microwave Electrothermal Thruster)である。これは、水を推進剤として使用し、太陽光発電による電力で生成したマイクロ波によって水をプラズマ化し、ノズルから噴射することで推力を得る方式である。この方式は、化学推進よりも比推力(燃費)に優れ、電気推進よりも推力が大きいというバランスの取れた特性を持つ。

また、水は安価で入手が容易であり、打ち上げ前のハンドリングにおいて特別な防護装備を必要としない。これにより、地上オペレーションのコストを大幅に削減できる。さらに、他の衛星との相乗り打ち上げにおいて、爆発や汚染のリスクが極めて低いため、打ち上げプロバイダーからの承認を得やすいという利点がある。

### プロダクトライン

主力プロダクトは、OTV「Vigoride(ヴィゴライド)」である。Vigorideは、SpaceXの「Falcon 9」などのロケットに相乗りし、複数の小型衛星を搭載して宇宙空間へ放出される。放出後、自律的に推進システムを作動させ、高度や傾斜角を調整して各衛星を最適な軌道へ配置する。2022年の「Vigoride-3」以降、複数の実証機および商用機を軌道上に投入しており、実際に顧客衛星の放出に成功している。

## 資金調達と投資家

### 調達ラウンド

モメンタスは、2019年のシリーズAラウンドでPrime Movers Labをリード投資家として2,550万ドルを調達した。その後、2021年8月に特別買収目的会社(SPAC)であるStable Road Acquisition Corpとの合併を通じて、NASDAQ市場への上場を果たした。この際、約2億4,700万ドルの資金を確保した(2021年8月12日プレスリリース)。

しかし、上場直前にSEC(米証券取引委員会)から、過去の技術実証結果に関する虚偽記載があったとして指摘を受け、800万ドルの制裁金を支払うことで和解した。この問題により、初期の評価額から大幅な修正を余儀なくされた。

### 主要投資家

主要な投資家には、ディープテックに特化したPrime Movers Labのほか、世界的なアクセラレーターであるY Combinatorが名を連ねている。また、上場時のPIPE(Private Investment in Public Equity)投資家として、複数の機関投資家が参画した。現在の株主構成は、上場後の株価低迷と経営再建の過程で変化しているが、防衛・宇宙分野の戦略的投資家との連携を模索している。

## 競合環境

### 主要競合

軌道上輸送サービス市場では、イタリアのD-Orbitが先行しており、既に多数のミッション実績を持つ。また、元SpaceXのエンジニアが設立したImpulse Spaceや、ロケットメーカーであるFirefly Aerospaceの「Elytra」などが直接的な競合となる。さらに、Vast Space傘下のLauncherも同様のOTV開発を進めている。

### 差別化ポイント

モメンタスの差別化ポイントは、水推進技術による「安全性」と「コスト効率」の両立である。競合他社が化学推進や高価なキセノンを用いた電気推進を採用する中、水という汎用的な物質を用いることで、将来的な宇宙資源利用(ISRU)との親和性も確保している。また、CEOのルード氏による米政府・国防総省との強力なネットワークは、安全保障関連の契約獲得において他社に対する優位性となり得る。

## 日本市場との関連

### 日本拠点・提携

現在、日本国内に直接的な拠点は存在しない。また、日本企業との資本提携やJV(ジョイントベンチャー)の設立も公表されていない。

### JAXA・政府との関係

現時点でJAXA(宇宙航空研究開発機構)や日本政府との直接的な契約実績は確認されていない。しかし、日本の小型衛星デベロッパーがSpaceXのライドシェアを利用する際、軌道投入の選択肢としてモメンタスのサービスが検討対象となる可能性はある。日本市場における接点は、現時点では限定的であると言える。

掲載元:Deep Space 編集部 (Momentus 分析)

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