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英Orbex、バイオ燃料ロケットで欧州小型衛星打上市場の覇権狙う

Deep Space 編集部5分で読了

該当する宇宙スキル標準

NO.9 プロジェクト統合マネジメントNO.30 流体制御設計・解析

ポイント解説

  • 1.環境規制が厳格な欧州において、バイオ燃料による低炭素打上という「グリーン・スペース」のニッチを確立し、政府の強力なバックアップを背景にインフラを独占する戦略。
  • 2.シリーズCで政府系銀行から5,000万ドルを調達した事実は、同社が単なるベンチャーではなく、英国の国家戦略インフラの担い手として公認されたことを意味する。
  • 3.SSS No.01(宇宙輸送インフラの専門家)として、打上場運営とロケット開発の垂直統合モデルを理解する上で最重要のケーススタディである。

英国の宇宙スタートアップOrbex(オーベックス)の企業概要、3Dプリントエンジン技術、資金調達状況、競合比較を解説。環境負荷を抑えた小型ロケットPrimeの詳細。

## 企業概要

### 創業の背景とミッション

Orbex(オーベックス)は、2015年にクリス・ラームア(Chris Larmour)氏とクリスチャン・フォン・ベングトソン(Kristian von Bengtson)氏によって設立された。同社は、急成長する小型衛星市場に対し、環境負荷が低く、高頻度かつ低コストな打上手段を提供することを使命としている。創業当初から、従来のロケット開発とは一線を画し、持続可能性(サステナビリティ)を中核に据えた設計思想を掲げている。

本社をスコットランドのフォレスに置き、デンマークとドイツにも開発拠点を有する。英国政府が推進する「宇宙産業戦略」の重要企業として位置づけられており、自社専用の打上施設であるサザーランド宇宙港(Sutherland Spaceport)の建設・運営も手掛ける。これにより、ロケット製造から打上運用までを垂直統合する体制を構築している。

### 経営陣

経営体制は、2024年に大きな転換期を迎えた。創業者のラームア氏に代わり、元ARMの幹部であり、複数のテック企業でスケールアップを成功させた実績を持つフィリップ・チェンバース(Phillip Chambers)氏がCEOに就任した。また、会長には元サンタンデール英国会長のロード・テリー・バーンズ(Lord Terry Burns)氏が就任しており、ガバナンス体制の強化を図っている。CTOのフォン・ベングトソン氏は、NASAでの経験や有人宇宙飛行プロジェクトの知見を活かし、技術開発の陣頭指揮を執り続けている。

## コア技術とプロダクト

### 技術概要

Orbexの基幹技術は、2段式小型ロケット「Prime」に集約される。最大の特徴は、燃料にバイオプロパン(BioLPG)を採用している点である。これにより、従来のケロシン燃料と比較して炭素排出量を90%削減し、大気圏上層部での煤の放出を最小限に抑えることが可能となった。この燃料選択は、環境規制が厳しい欧州市場において強力な差別化要因となっている。

また、推進系にはSLM Solutions社の大型3Dプリンタを用いた単一部品のエンジンを採用している。部品点数の削減により、軽量化と製造コストの低減を実現した。機体構造には炭素繊維複合材(カーボンファイバー)を多用し、構造効率を極限まで高めている。さらに、独自の回収システムにより、初段機体の再利用を計画しており、打上コストのさらなる引き下げを目指している。

### プロダクトライン

主力製品である「Orbex Prime」は、全長19メートル、直径1.3メートルの小型ロケットである。高度500kmの太陽同期軌道(SSO)に対して最大150kgのペイロードを投入する能力を持つ。2022年には実物大のプロトタイプを公開し、地上試験を継続している。また、サザーランド宇宙港は、英国本土で初めて垂直打上のライセンスを取得する見込みの施設であり、Orbexの事業継続における最重要インフラとなっている。

## 資金調達と投資家

### 調達ラウンド

Orbexはこれまでに累計1億ポンド(約1億2,500万ドル)以上の資金を調達している。2018年のシリーズAでは、英国宇宙庁(UKSA)からの助成金を含む4,000万ドルを確保した。2020年のシリーズBでは、BGFやOctopus Venturesから2,400万ドルを調達。さらに2022年10月には、スコットランド政府系のスコットランド国立投資銀行(Scottish National Investment Bank)が主導するシリーズCで5,000万ドルを調達した。この資金は、サザーランド宇宙港の建設加速と、Primeロケットの初号機打ち上げに向けた準備に充てられている。

### 主要投資家

主要投資家には、政府系機関と民間VC、事業会社が名を連ねる。スコットランド国立投資銀行の参画は、地域経済活性化と宇宙産業の育成という公的な裏付けを示している。また、世界最大級のエンジニアリング企業であるJacobs(ジェイコブズ)社が戦略的投資家として参画しており、打上運用の技術支援やサプライチェーン管理において協力関係にある。民間VCのHeartcore CapitalやHigh-Tech Gründerfondsは、初期段階から継続的に支援を行っている。

## 競合環境

### 主要競合

小型ロケット市場は世界的に競争が激化している。最大の競合は、既に商用打上実績を積み上げている米Rocket Lab(ロケット・ラボ)である。欧州内では、同じく英国を拠点とするSkyrora(スカイローラ)、ドイツのIsar Aerospace(アイザー・エアロスペース)やHyImpulse(ハイインパルス)が直接的な競合となる。これらの企業は、いずれも2024年から2025年にかけての初打上を目指しており、欧州初の軌道投入を巡る開発競争が展開されている。

### 差別化ポイント

Orbexの優位性は、第一に「環境適合性」にある。バイオ燃料の使用は、ESG投資を重視する顧客や政府機関にとって魅力的な選択肢となる。第二に「垂直統合型のインフラ」である。自社で打上場を管理することで、打上スケジュールの柔軟性を確保し、他社に依存しない運用が可能となる。第三に「英国政府との密接な連携」である。英国はEU離脱後、独自の宇宙打上能力の確保を急いでおり、Orbexはその国策の筆頭候補として、規制対応や資金面で優遇措置を受けている。

## 日本市場との関連

### 日本拠点・提携

現時点でOrbexは日本国内に拠点を持たず、日本企業との資本・業務提携も公表されていない。同社の戦略は、まず英国および欧州の衛星事業者をターゲットとしており、アジア市場への進出は中長期的な課題と位置づけられている。

### JAXA・政府との関係

JAXA(宇宙航空研究開発機構)や日本政府との直接的な協力関係は確認されていない。しかし、日本の小型衛星スタートアップが欧州での打上を検討する際、環境負荷の低さを売りにするOrbexが選択肢に入る可能性はある。日本市場との接点は、将来的な打上需要の獲得という形に限定されるとみられる。

掲載元:Deep Space 編集部 (Orbex 分析)

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