スタートアップ
英スカイローラ、廃プラ燃料と3D造形で小型ロケット市場を攻略
該当する宇宙スキル標準
ポイント解説
- 1.環境負荷低減と製造自動化を軸とした、英国主導の宇宙輸送インフラの構築。
- 2.ESAから300万ユーロの支援を受け、2023年には70kNエンジンの燃焼試験に成功した。
- 3.SSS No.14(宇宙輸送・ロケット)に該当する、欧州の垂直打ち上げ市場の旗手。
英国発の宇宙スタートアップ、スカイローラ(Skyrora)の企業分析。3Dプリンティングによるロケット製造、廃プラスチック燃料「Ecoene」、ESAとの提携、主力機Skyrora XLの開発状況を解説。

## 企業概要
### 創業の背景とミッション
スカイローラ(Skyrora Ltd)は、2017年に英国スコットランドのエディンバラで設立された。創業者のヴォロディミール・レヴィキン(Volodymyr Levykin)は、IT業界での成功を経て、英国における自律的な宇宙輸送能力の必要性を痛感し、同社を立ち上げた。当時の英国は衛星製造において世界的なシェアを持ちながら、自国内からの打ち上げ手段を欠いていた。このギャップを埋めることが、同社の設立動機である。
同社のミッションは、環境に配慮した持続可能な方法で、小型衛星を軌道上に投入するサービスを提供することである。特に、廃プラスチックを燃料に変換する技術や、3Dプリンティングによる製造の自動化を推進している。これにより、従来のロケット産業が抱える環境負荷と高コスト構造の解決を目指している。
### 経営陣
CEOのレヴィキン氏は、デジタルプラットフォームの運営で培った効率的な組織運営の手法を宇宙産業に持ち込んだ。また、取締役会には元ESA宇宙飛行士のティム・ピーク(Tim Peake)氏が名を連ねる。ピーク氏の参画は、同社の技術的信頼性と、英国政府および欧州宇宙機関(ESA)との戦略的関係を強化する役割を果たしている。さらに、ウクライナのロケット工学の知見を取り入れることで、迅速な開発サイクルを実現している。
## コア技術とプロダクト
### 技術概要
スカイローラの技術的核は、高濃度過酸化水素(HTP)を酸化剤として使用する推進システムである。一般的なロケットが使用する液体酸素(LOX)は極低温での管理が必要であり、打ち上げ直前の充填や蒸発による損失が課題となる。一方、HTPは常温保存が可能である。これにより、打ち上げの柔軟性が高まり、地上設備の簡素化が可能となる。
また、同社は「エコーン(Ecoene)」と呼ばれる独自の燃料を開発した。これは非リサイクルプラスチックを熱分解して生成されるケロシン代替燃料である。従来のケロシンと比較して、硫黄酸化物の排出を抑え、二酸化炭素排出量を約45%削減できると発表している。この燃料は、同社のエンジン試験において良好な性能を示している。
### プロダクトライン
主力製品である「スカイローラXL(Skyrora XL)」は、3段式の小型ロケットである。全長22.7メートル、直径2.2メートルで、最大315kgのペイロードを太陽同期軌道(SSO)に投入する能力を持つ。第1段には7基の70kNエンジンを搭載し、これらはすべて自社の3Dプリンター「Skyprint 2」で製造される。
サブオービタル機である「スカイラークL(Skylark L)」は、2022年10月にアイスランドで打ち上げ試験を実施した。この試験では、機体が海上に着水するまでのプロセスを確認し、飛行データの収集に成功した。また、さらに小型の「スカイラーク・ナノ(Skylark Nano)」は、教育用や低高度の気象観測用として既に複数回の打ち上げ実績を持つ。
## 資金調達と投資家
### 調達ラウンド
スカイローラは、これまでに累計で約3,000万ポンド(約3,820万ドル)以上の資金を調達している。2021年3月には、ESAの「Boost!」プログラムから300万ユーロの資金提供を受けた。この資金は、スカイローラXLの開発加速と、英国内での製造拠点の整備に充てられた。さらに、2022年にはシリーズAラウンドにおいて、非公開の投資家から約3,500万ドルの資金を確保したと報じられている。
### 主要投資家
ESAは、同社にとって単なる資金提供者以上の意味を持つ。ESAの支援は、同社の技術が欧州の宇宙戦略において重要であることを証明するものである。また、英国宇宙庁(UK Space Agency)も、国内の打ち上げ拠点整備に関連して同社を支援している。民間投資家については詳細が非公開の部分が多いが、主に欧州のテック系VCや個人投資家が中心となっている。
## 競合環境
### 主要競合
欧州における小型ロケット市場は激戦区である。最大の競合は、同じく英国に拠点を置くオーベックス(Orbex)である。オーベックスはバイオプロパンを燃料とする「プライム(Prime)」を開発しており、環境性能で競合する。また、ドイツのイザール・エアロスペース(Isar Aerospace)やハイインパルス(HyImpulse)も、強力な資金力と技術力を背景に市場参入を狙っている。グローバルでは、米国のロケット・ラボ(Rocket Lab)が既に商業運用で先行しており、スカイローラはこれらに対する差別化が求められている。
### 差別化ポイント
スカイローラの差別化要因は、推進剤のハンドリングの容易さと、垂直統合された製造プロセスにある。HTPの使用により、移動式発射台からの迅速な打ち上げが可能となる。これは、地理的に制約の多い英国の射場において大きな利点となる。また、自社製3Dプリンターによる内製化率は、サプライチェーンの混乱に対する耐性を高めている。さらに、廃プラスチック燃料の採用は、ESG投資を重視する衛星運用顧客に対する強力な訴求力となっている。
## 日本市場との関連
### 日本拠点・提携
現在、スカイローラは日本国内に拠点を置いておらず、日本企業との資本提携も公表されていない。しかし、同社のCEOはグローバル展開に意欲的であり、アジア市場におけるパートナーシップの可能性を否定していない。
### JAXA・政府との関係
JAXAとの直接的な協力関係は現時点では存在しない。しかし、日本政府が進める「宇宙輸送システム改革」において、海外の低コストな打ち上げ手段との連携は検討課題の一つである。将来的に、日本の小型衛星メーカーが英国の射場を利用する際、スカイローラが有力な選択肢となる可能性がある。
また、日本の宇宙スタートアップが欧州市場へ進出する際の技術協力や、廃プラスチック燃料技術のライセンス供与といった形での接点が期待される。同社の環境配慮型ロケットは、日本のSDGs戦略とも親和性が高い。
掲載元:Deep Space 編集部 (Skyrora 分析)
推定読了 4 分
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