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QPS研究所、小型SAR衛星の量産とデータ販売を加速

Deep Space 編集部5分で読了

該当する宇宙スキル標準

NO.37 電源コンポーネント(パワーエレクトロニクス)設計・解析NO.28 熱/熱制御設計・解析NO.33 化学推進(液体燃料)システム設計・解析

ポイント解説

  • 1.大型展開アンテナ技術による「小型・軽量・高性能」の同時実現が、SAR衛星市場の価格破壊と高頻度観測を可能にする。
  • 2.2023年のIPOを経て、防衛省からの大型受注(約5.6億円)やJAXAとの契約など、官需を基盤とした収益モデルが確立しつつある。
  • 3.SSS No.5595として上場を果たし、日本の宇宙ベンチャーとして初の量産フェーズに突入した象徴的企業である。

九州大学発の宇宙ベンチャー、QPS研究所のSAR衛星技術、資金調達実績、競合比較、日本市場での展開を詳説。独自の大型展開アンテナによる高精細観測と量産体制の強みを分析。

## 企業概要

### 創業の背景とミッション

株式会社QPS研究所は、2005年に九州大学の八坂哲雄名誉教授、白坂耕一氏、そして地元福岡の若手経営者らによって設立された。創業の背景には、九州大学で長年蓄積されてきた小型衛星開発の知見を社会実装し、福岡を宇宙産業の拠点にするという強い意志がある。八坂氏はNTT横須賀電気通信研究所や九州大学において、人工衛星の構造設計やスペースデブリ対策の第一人者として知られ、その技術的裏付けが同社の基盤となっている。

同社のミッションは「宇宙の叡智を人類の進歩に」であり、具体的には小型SAR(合成開口レーダー)衛星を用いた高頻度な地球観測インフラの構築を目指している。従来の大型SAR衛星は、開発に数百億円の費用と数年の期間を要していたが、QPS研究所はこれを100kg級の小型衛星に置き換えることで、コストを100分の1以下に抑制することに成功した。これにより、36機の衛星によるコンステレーション(衛星群)を構築し、世界中のあらゆる地点を平均10分で観測できる社会の実現を掲げている。

### 経営陣

現在の経営を牽引するのは、代表取締役社長CEOの大西俊輔氏である。大西氏は九州大学大学院で博士号を取得後、同社に参画した。八坂氏の技術を継承しつつ、ベンチャー企業としての事業化を推進し、2017年のシリーズA調達以降、組織を急速に拡大させた。また、創業者の八坂氏は現在も技術的な支柱として存在しており、アカデミアの深い知見とビジネスのスピード感を融合させた経営体制が特徴である。

## コア技術とプロダクト

### 技術概要

QPS研究所のコア技術は、直径3.6mに及ぶ「大型展開式パラボラアンテナ」である。SAR衛星において、観測データの解像度と感度はアンテナの大きさに直結する。しかし、アンテナを大きくすれば衛星自体も大型化し、打ち上げコストが増大するという課題があった。同社はこの課題に対し、金属メッシュを用いた軽量な展開構造を採用することで解決した。このアンテナは、打ち上げ時には100kg級の小型衛星の筐体に収まるサイズに折り畳まれ、軌道上で傘のように展開される。

SAR(Synthetic Aperture Radar:合成開口レーダー)は、衛星から電波を照射し、地表からの反射を測定することで画像を生成する。太陽光を必要とする光学衛星とは異なり、夜間や厚い雲に覆われた地域でも観測が可能である。この特性により、災害時の状況把握や森林監視、海洋監視において極めて高い有用性を発揮する。同社の技術は、小型衛星でありながら大型衛星に匹敵する解像度を実現しており、2023年には46cm分解能の画像取得に成功したと発表した。

### プロダクトライン

同社のプロダクトは「QPS-SAR」シリーズとして展開されている。1号機「イザナギ」および2号機「イザナミ」は技術実証機として打ち上げられ、アンテナの展開や基本的な観測機能を確認した。その後、改良を加えた商業実証機として6号機「アマテル-III」を打ち上げ、高精細な画像の取得に成功している。今後は、量産型衛星を順次投入し、2020年代後半までに36機体制を確立する計画である。これらの衛星から得られるデータは、農業、土木、防災、安全保障など幅広い分野での活用が期待されている。

## 資金調達と投資家

### 調達ラウンド

QPS研究所は、これまでに累計で100億円を超える資金を調達している。2017年のシリーズAでは、INCJ(旧産業革新機構)をリード投資家として23.5億円を調達した。これにより、実証機の開発と打ち上げが加速した。2021年のシリーズBでは、スカパーJSATや日本政策投資銀行などから38.5億円を調達し、商業化に向けた体制を強化した。さらに2022年には、キヤノン等から15億円の追加調達を実施している。

2023年12月6日、同社は東京証券取引所グロース市場へ上場した。IPOによる調達額は約35億円であり、これにより衛星の量産体制の構築と、グローバルなデータ販売網の拡充を進めている。上場後の時価総額は一時1,000億円を超えるなど、市場からの期待は極めて高い。

### 主要投資家

主要な投資家には、政府系ファンドのINCJや日本政策投資銀行のほか、スカパーJSAT、キヤノン、三井住友海上キャピタルなどの事業会社が名を連ねる。スカパーJSATとの提携は、衛星データの販売チャネル確保において重要な意味を持つ。また、キヤノンとの提携は、精密機器の製造ノウハウを衛星の量産に活かす狙いがある。これらの投資家層は、単なる資金提供にとどまらず、技術・販売の両面で同社の成長を支える戦略的パートナーとなっている。

## 競合環境

### 主要競合

小型SAR衛星の分野では、世界的に競争が激化している。主な競合としては、フィンランドのICEYE、米国のCapella Space、Umbra、そして国内ではSynspectiveが挙げられる。ICEYEは既に数十機の衛星を運用しており、先行者利益を享受している。Capella Spaceは高い解像度と迅速なデータ提供を強みとしている。

### 差別化ポイント

QPS研究所の差別化ポイントは、前述の「大型アンテナによる高感度観測」と「圧倒的な低コスト構造」である。競合他社の多くが1m〜2m程度のアンテナを採用する中、3.6mという圧倒的なサイズは、より鮮明な画像データを提供する源泉となっている。また、福岡の地場企業と連携したサプライチェーンは、海外勢と比較しても製造コストの抑制に寄与している。さらに、日本政府の宇宙安全保障政策において、国産SAR衛星の重要性が高まっており、防衛省等からの安定的な受注が見込める点も大きな強みである。

## 日本市場との関連

### 日本拠点・提携

同社は福岡市に本社を置き、開発・運用の拠点としている。福岡県および福岡市は宇宙産業の振興に注力しており、同社はその象徴的な存在である。九州宇宙ビジネス・クラスターを通じて、地場の精密加工業者や電子機器メーカーと密接に連携しており、地域経済への波及効果も大きい。

### JAXA・政府との関係

JAXAとは、革新的衛星技術実証プログラムを通じて長年の協力関係にある。また、内閣府の「宇宙開発利用加速化戦略プログラム(Starlightプロジェクト)」や、防衛省の小型衛星コンステレーション活用実証事業にも参画している。政府が掲げる「宇宙基本計画」において、SAR衛星コンステレーションは国土強靭化や安全保障の観点から不可欠なインフラと位置づけられており、QPS研究所はその中核を担う企業として期待されている。

掲載元:Deep Space 編集部 (QPS研究所 分析)

推定読了 5

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