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インターステラ、低価格ロケット「ZERO」開発で宇宙輸送の民主化狙う

Deep Space 編集部5分で読了

該当する宇宙スキル標準

NO.9 プロジェクト統合マネジメントNO.30 流体制御設計・解析

ポイント解説

  • 1.既存の航空宇宙サプライチェーンを破壊し、汎用品活用による垂直統合モデルで「輸送のコモディティ化」を追求する宇宙版LCC戦略である。
  • 2.累計調達額170億円に加え、政府SBIRによる最大140億円の資金裏付けを得たことで、ZERO開発の完遂に向けた財務的レジリエンスが大幅に向上した。
  • 3.SSS No.14(Space Safety & Security)に直結する国内輸送能力の確保は、経済安全保障上の最優先課題であり、同社は官民連携の象徴的地位にある。

インターステラテクノロジズ(IST)の企業概要、ロケット「ZERO」の開発状況、資金調達実績、競合比較を専門アナリストが解説。北海道大樹町を拠点とする民間ロケット開発の最前線。

## 企業概要

### 創業の背景とミッション

インターステラテクノロジズ(IST)は、2013年に北海道大樹町で設立された。同社は「誰もが宇宙に手が届く未来をつくる」をミッションに掲げる。創業の原点は、実業家の堀江貴文氏が主導した「なつのロケット団」にある。2000年代後半から有志によるロケット開発が進められ、民間主導による低価格な輸送手段の必要性が議論された。既存の国家主導型開発は高コストであり、衛星ビジネスの拡大を阻害しているとの認識があった。これにより、徹底したコスト削減と垂直統合型開発を特徴とするISTが誕生した。

同社は、世界的に急増する超小型人工衛星の打上げ需要を取り込むことを狙う。宇宙輸送を「特別な事業」から「一般的なインフラ」へと変革することを目指している。北海道大樹町という、東と南が海に開かれたロケット発射に最適な地理的条件を最大限に活用している。地方自治体や地元企業と連携し、地域一体となった「宇宙のまちづくり」を推進している点も特徴である。

### 経営陣

代表取締役社長の稲川貴大氏は、東京工業大学大学院で機械宇宙工学を専攻した技術者である。学生時代から人力飛行機の開発に携わり、ものづくりの現場に精通している。2013年の設立と同時に入社し、2014年から現職を務める。稲川氏は、技術開発の指揮のみならず、資金調達や組織拡大を牽引してきた。創業者の堀江貴文氏は取締役に名を連ね、経営戦略の立案や広報、ネットワーキングを担う。また、社外取締役やアドバイザーには、アカデミアや金融界から専門家を招聘し、ガバナンス体制の強化を図っている。

## コア技術とプロダクト

### 技術概要

ISTの技術的特徴は、徹底した「垂直統合」と「汎用品の活用」にある。ロケットの設計、製造、試験、そして打上げ運用までを自社で一貫して行う。これにより、外部調達に伴うコストと時間を大幅に削減している。また、宇宙専用部品ではなく、自動車用部品や産業用汎用品を積極的に採用する。これにより、信頼性を確保しつつ、従来のロケット開発の常識を覆す低価格化を実現している。

推進系においては、液化バイオメタン(LBM)を燃料に採用したエンジン「COSMOS」を開発した。LBMは環境負荷が低く、牛糞などの地域資源から生産可能である。燃焼器にはピントル型インジェクタを採用した。これはアポロ計画の月着陸船でも使用された技術であり、構造がシンプルで燃焼安定性が高い。同社はこの技術を現代の製造技術で最適化し、高性能なエンジンを自社開発している。

### プロダクトライン

主力製品は、現在開発中の超小型人工衛星打上げロケット「ZERO」である。全長約32メートル、直径2.3メートルの2段式ロケットである。低軌道(LEO)に最大800kgの衛星を投入する能力を持つ。これは、世界の小型ロケット市場において競争力のあるスペックである。2024年度以降の初号機打上げを目指し、現在はエンジンの燃焼試験や機体構造の製作が進んでいる。

これに先立ち、同社は観測ロケット「MOMO」を運用してきた。MOMOは高度100kmの宇宙空間に到達することを目的としたサブオービタルロケットである。2019年に発射された3号機は、国内民間企業として初めて宇宙空間に到達した。その後、2021年の7号機でも成功を収めている。MOMOでの開発・運用経験は、ZEROの開発に直接フィードバックされている。

## 資金調達と投資家

### 調達ラウンド

ISTは、これまでに累計で約170億円の資金を調達した(2024年1月時点、補助金・融資含む)。2022年3月のシリーズCラウンドでは、SBIインベストメントをリード投資家として約38億円を調達した。さらに2024年1月には、シリーズDラウンドのファーストクローズとして約31億円の調達を発表した。これらの資金は、ZEROの開発費や試験設備の拡充、人員増強に充てられている。

特筆すべきは、文部科学省の「中小企業イノベーション創出推進事業(SBIRフェーズ3)」への採択である。2023年、宇宙輸送分野において最大140億円の交付が決定した。これは、政府が民間ロケット開発を国家戦略として支援する姿勢を鮮明にしたものである。段階的な目標達成(マイルストーン)に応じて資金が交付される仕組みであり、ZEROの開発加速を強力に後押ししている。

### 主要投資家

主要投資家には、SBIインベストメント、みずほキャピタル、SMBCベンチャーキャピタルといった国内有力VCが名を連ねる。また、ENEOSイノベーションパートナーズやサツドラホールディングス、丸紅といった事業会社も出資している。これは、宇宙輸送がエネルギー、物流、小売など幅広い産業に波及効果を持つと期待されているためである。特に丸紅とは、ZEROの打上げ枠の販売代理店契約を締結しており、商業化に向けた連携を強化している。

## 競合環境

### 主要競合

グローバル市場における最大の競合は、米国のRocket Labである。同社の「Electron」は既に多数の打上げ実績を持ち、小型ロケット市場をリードしている。また、Firefly Aerospaceや、国内ではキヤノン電子などが出資するスペースワンが直接の競合となる。スペースワンは2024年に「カイロス」の初号機を打上げたが、軌道投入には至らなかった。このほか、SpaceXの「ライドシェア(相乗り)」サービスも、価格面で強力な競合となっている。

### 差別化ポイント

ISTの差別化ポイントは、打上げ頻度の柔軟性と、射場直結の開発体制にある。SpaceXの相乗りは安価だが、打上げ時期や投入軌道の自由度が低い。これに対し、ZEROは特定の顧客の要望に応じた「専用便」としての価値を提供する。また、北海道大樹町という自社拠点から打上げるため、海外輸送の手間やコストが発生しない。これは国内の衛星オペレーターにとって大きなメリットとなる。

さらに、燃料にバイオメタンを使用する「グリーンなロケット」としての立ち位置も、ESG投資を重視する顧客への訴求力となる。垂直統合によるコスト削減により、1回あたりの打上げ費用を6億円以下に抑えることを目標としている。これは、世界の競合他社と比較しても極めて高い価格競争力を持つ水準である。

## 日本市場との関連

### 日本拠点・提携

ISTは北海道大樹町に本社および開発拠点を置く。東京にもオフィスを構えるが、主要なエンジニアリングと製造は大樹町で行われる。地元自治体の大樹町とは緊密な協力関係にあり、官民連携で「北海道スペースポート(HOSPO)」の整備を進めている。また、エア・ウォーター株式会社とは、家畜糞尿から液化バイオメタンを製造・供給するサプライチェーン構築で提携している。これは地域資源を宇宙産業に活用する先進的な事例である。

### JAXA・政府との関係

日本政府との関係は極めて強固である。内閣府の宇宙基本計画において、民間輸送能力の育成は重点項目となっている。JAXAとは「革新的衛星技術実証プログラム」を通じて、打上げ輸送サービスの提供者として選定されている。また、前述のSBIRフェーズ3採択により、JAXAの技術的な監修を受けながら開発を進めている。これは、ISTが日本の宇宙安全保障および産業競争力強化を担う「指定席」を確保したことを意味する。政府による「官製需要」の創出は、同社の事業安定化に大きく寄与するとみられる。

掲載元:Deep Space 編集部 (インターステラテクノロジズ 分析)

推定読了 5

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