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スペースワン、民間専用射場を武器に小型ロケットの量産化に挑む

Deep Space 編集部4分で読了

該当する宇宙スキル標準

NO.9 プロジェクト統合マネジメントNO.30 流体制御設計・解析

ポイント解説

  • 1.国内唯一の専用射場を起点に、衛星打ち上げを「特殊なイベント」から「日常の物流」へ転換する。
  • 2.2023年の世界打ち上げ回数は212回と過去最高を更新し、前年比約14%増となった(米BryceTech調べ)。
  • 3.SSS No.07 システムインテグレーション:官民の大規模プロジェクトを束ねる工程管理能力が求められる。

小型ロケット「カイロス」を開発するスペースワンを分析。キヤノン電子ら出資の背景、固体燃料による即応性、世界市場での競合環境、2号機打ち上げに向けた展望を日経の視点で解説。

スペースワンは、日本初の民間ロケット発射場を運営する輸送サービス企業である。2024年3月に実施した小型ロケット「カイロス」初号機の打ち上げは、離陸直後の自動破壊により失敗に終わった。しかし、同社が目指す「宇宙の宅配便」構想は、日本の宇宙産業の自立に不可欠なピースだ。世界で急増する小型衛星の打ち上げ需要を背景に、同社は年間20機の高頻度打ち上げ体制の構築を急ぐ。

企業概要と創業の背景

スペースワンは2018年7月に設立された。キヤノン電子、IHIエアロスペース、清水建設、日本政策投資銀行(DBJ)の4社が共同出資して誕生した。特定の親会社を持たない「共同事業体型」のスタートアップである点が特徴だ。同社のミッションは、小型衛星を「必要な時に、必要な軌道へ」送り届ける輸送サービスの提供である。和歌山県串本町に日本初の民間ロケット発射場「スペースポート紀伊」を建設し、地上設備からロケット本体までを一気通貫で管理する。

技術的優位性

主力の「カイロス」は全長約18メートル、重量約23トンの3段式固体燃料ロケットである。JAXA(宇宙航空研究開発機構)の「イプシロン」と比較して、全長は約7割に抑えられている(JAXA公開データ比)。固体燃料の最大の特徴は、液体燃料と異なり事前の充填作業が不要な点だ。これにより、発射までの作業時間を大幅に短縮できる。同社は衛星の受領から打ち上げまで「最短4日」という極めて短いサイクルを目標に掲げる。これは、従来の大手ロケットが数週間から数ヶ月を要した準備期間を劇的に短縮する試みだ。

さらに、管制業務の自動化にも注力する。従来の打ち上げには数百人規模の要員が必要だったが、同社は十数人での運用を目指す。機体に搭載した自己診断機能により、異常検知から自動破壊までを地上を介さず判断する。この「高度な自動化」こそが、高頻度かつ低コストな運用の源泉となる。他国の新興勢力である米ロケットラボが液体燃料を採用する中で、あえて固体燃料を選択したのは、この「即応性」を追求した結果といえる。

財務・資金調達

同社は未上場企業であり、詳細な財務状況は非公開だが、設立時の資本金は1億円であった。その後、2022年までに複数の増資を実施している。主な株主には創業4社のほか、三菱UFJ銀行や紀陽銀行などの金融機関が名を連ねる。米国市場のスペースXのように数千億円規模の資金をVC(ベンチャーキャピタル)から集める手法とは異なり、事業会社による戦略的投資が中心だ。初号機の失敗後も、出資各社は継続支援の姿勢を崩していない。2024年中を目指す2号機の打ち上げに向け、必要な資金は確保されているとみられる。

市場ポジションと競合環境

世界の小型衛星打ち上げ市場は、2032年までに累計2万8000機以上に達するとの予測がある(ユーロコンサル調べ)。これは過去10年間の約4倍に相当する成長性だ。競合としては、米ロケットラボが先行する。同社は「エレクトロン」ロケットにより、すでに40回以上の打ち上げ実績を持つ。低軌道(LEO)への投入能力は300kgで、カイロスの250kg(高度500km)と競合する。また、国内ではインターステラテクノロジズ(北海道)が液体燃料ロケット「ZERO」の開発を進めており、国内勢同士のシェア争いも激化する見通しだ。

日本市場への示唆

スペースワンの成否は、日本の「宇宙輸送網の自立」に直結する。現在、日本の衛星事業者の多くは、米スペースXなどの海外ロケットに頼らざるを得ない。しかし、地政学リスクの増大により、自国での打ち上げ手段確保は経済安全保障上の最優先課題となっている。同社が安定的な打ち上げを提供できれば、日本の衛星スタートアップは開発サイクルの高速化が可能になる。また、和歌山県という地方に射場を設けたことで、地域経済の活性化や宇宙関連の部品サプライヤーの集積も期待される。日本の製造業が持つ精密加工技術を宇宙分野へ転換する好例となるはずだ。

投資家向け評価

投資家の視点では、スペースワンは「高リスク・高リターンの典型」と映る。ロケット開発は初号機の成功率が3割程度と言われるほど難易度が高い。1回の失敗で事業が止まるリスクは常に存在する。一方で、国内唯一の民間射場を保有しているという参入障壁は極めて高い。防衛省が検討する「即応型小型衛星」の打ち上げ枠を確保できれば、安定した公的需要が見込める。当面の焦点は2号機の成否だ。連続して失敗すれば資金繰りが厳しくなるが、成功すれば「日本版ロケットラボ」としての評価が確立し、さらなる大型調達やIPO(新規株式公開)への道が開けるだろう。

掲載元:Deep Space 編集部 (スペースワン 分析)

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