スタートアップ

アストロスケール、軌道上サービスで宇宙の持続可能性を牽引

Deep Space 編集部5分で読了

該当する宇宙スキル標準

NO.9 プロジェクト統合マネジメントNO.37 電源コンポーネント(パワーエレクトロニクス)設計・解析NO.30 流体制御設計・解析

ポイント解説

  • 1.軌道上サービスという未踏市場において、技術実証と国際ルール形成を同時に進めることで先行者利益を最大化するインフラ戦略。
  • 2.2024年のADRAS-Jミッション成功により、非協力対象物への接近技術で世界トップレベルの技術成熟度(TRL)を証明した。
  • 3.SSS No.01(Space Sustainability Services)の開拓者として、宇宙版のロードサービスという新職域を創出している。

宇宙スタートアップ、アストロスケールの事業内容、技術優位性、資金調達実績を解説。デブリ除去(ADR)や衛星寿命延長(LEX)の商用化を推進する同社の強みとは。

## 企業概要

### 創業の背景とミッション

アストロスケールは2013年、創業者である岡田光信氏によってシンガポールで設立された。設立の背景には、宇宙空間におけるスペースデブリ(宇宙ゴミ)の急増が、将来の宇宙利用を不可能にする「ケスラー・シンドローム」への強い危機感がある。当時、デブリ除去は技術的・経済的に不可能とされていたが、同社は「宇宙の持続可能性(スペース・サステナビリティ)の確保」をミッションに掲げ、世界で初めて軌道上サービスの商用化に乗り出した。

同社は、単なる技術開発企業に留まらず、デブリ除去に関する国際的な法的枠組みや市場ルールの形成を主導してきた。現在では日本に本社を置き、英国、米国、フランス、イスラエルに拠点を構えるグローバル企業へと成長している。2024年6月には、宇宙スタートアップとして世界的に注目される中で東京証券取引所グロース市場への上場を果たした。

### 経営陣

代表取締役CEOの岡田光信氏は、マッキンゼーでのコンサルティング経験とIT業界での起業経験を併せ持つ。宇宙業界外からの参入ながら、国際宇宙航行連盟(IAF)の副会長を務めるなど、業界のリーダーシップを確立した。また、COOのクリス・ブラッカビー氏は元NASA日本代表であり、国際的な宇宙政策と政府間調整に精通している。CFOの松本恭幸氏は、ゴールドマン・サックス証券等の金融機関で培った財務戦略を武器に、累計3.8億ドルを超える巨額の資金調達を主導した。このように、技術、政策、財務の各分野で高度な専門性を持つメンバーが経営を支えている。

## コア技術とプロダクト

### 技術概要

アストロスケールのコア技術は「RPO(Rendezvous and Proximity Operations:ランデブー・近傍運用)」である。これは、時速約2万8000キロメートルで移動する衛星が、制御不能な対象物に数センチメートルの精度で接近し、安全に捕捉する技術を指す。同社は、画像センサーを用いた非協力対象物の姿勢推定アルゴリズムと、自律的な接近制御ソフトウェアにおいて独自の優位性を持つ。

捕捉機構については、磁石を用いた「マグネティック・ドッキング・プレート」と、汎用性の高い「ロボットアーム」の二つの方式を採用している。前者は将来の衛星にあらかじめプレートを装着しておくことで、運用終了後の除去を容易にする。後者は、既存のデブリなどプレートを持たない対象物を捕捉するために使用される。これらの技術により、同社は「宇宙のロードサービス」とも言える多角的な軌道上サービスを提供することが可能となった。

### プロダクトライン

主要なプロダクトとして、以下の4つのラインナップを展開している。

1. **ELSA-d(End-of-Life Services by Astroscale - demonstration)**:2021年に軌道上で実証試験を行った機体。模擬デブリの分離と磁石による捕捉に成功し、民間初のデブリ除去技術を証明した。

2. **ADRAS-J(Active Debris Removal by Astroscale - Japan)**:JAXAのプロジェクトとして開発。2024年2月に打ち上げられ、軌道上に長期間放置されていたロケット上段への接近・観測に成功した。これは世界初の試みである。

3. **ELSA-M(End-of-Life Services by Astroscale - Multi-client)**:1回のミッションで複数の運用終了衛星を回収する商用機。衛星コンステレーション事業者向けに2025年以降のサービス開始を目指している。

4. **LEX(Life Extension)**:静止軌道上の衛星に対して燃料補給やドッキングを行い、運用寿命を延長するサービス。米宇宙軍からの受注も獲得している。

## 資金調達と投資家

### 調達ラウンド

アストロスケールは、上場までに累計約3.8億ドル(約600億円)の資金を調達した。これは日本のスタートアップとしては最大級の規模である。2021年のシリーズFでは109億円、2023年のシリーズGでは三菱電機をリード投資家として約101億円を調達した。これらの資金は、大型衛星の開発費やグローバルな拠点展開、およびRPO技術の高度化に充てられた。2024年6月の上場時時価総額は約1000億円規模となり、宇宙セクターにおける有力なユニコーン企業としての地位を確立した。

### 主要投資家

筆頭株主であった産業革新機構(INCJ)をはじめ、三菱電機、三菱地所、日本航空、ANAホールディングスなど、日本を代表する事業会社が名を連ねる。また、海外からはAXA(フランス)やSeraphim Space(英国)などの宇宙専門VCも参画している。これらの投資家層の厚さは、同社の事業が単なる技術開発ではなく、次世代のインフラ産業として認識されていることを示している。

## 競合環境

### 主要競合

主な競合には、欧州のClearSpace(クリアスペース)やD-Orbit(ディーオービット)、米国のNorthrop Grumman(ノースロップ・グラマン)傘下のSpaceLogisticsがある。ClearSpaceは欧州宇宙機関(ESA)の支援を受け、大型デブリ除去ミッションを進めている。D-Orbitは衛星のラストワンマイル輸送に強みを持つ。Northrop Grummanは静止軌道での寿命延長サービスにおいて先行している。

### 差別化ポイント

アストロスケールの差別化ポイントは、第一に「実証実績」である。ELSA-dおよびADRAS-Jによる軌道上での成功実績は、顧客である衛星事業者や政府機関に対する強力な信頼の裏付けとなっている。第二に「グローバルな多拠点展開」である。各国政府の宇宙予算を直接獲得できる体制を整えており、特定の国に依存しない収益構造を構築している。第三に「ルール形成能力」である。世界経済フォーラム(WEF)等を通じて、宇宙の持続可能性に関する評価指標(SSR)の策定に関与するなど、自社に有利な市場環境を自ら作り出す能力に長けている。

## 日本市場との関連

### 日本拠点・提携

本社を東京に置き、研究開発および製造の主要拠点を日本国内に保持している。三菱電機とは衛星バスの共同開発で提携しており、国内の宇宙産業サプライチェーンの核となっている。また、日本航空(JAL)とは地上オペレーションの知見活用で協力するなど、異業種との連携も積極的である。

### JAXA・政府との関係

日本政府およびJAXAとは極めて密接な関係にある。JAXAの「商業デブリ除去実証(CRD2)」のパートナーとして選定されており、国策としてのデブリ除去事業を牽引する立場にある。また、内閣府の宇宙開発戦略推進事務局が進める宇宙安全保障政策においても、同社の技術は宇宙状況把握(SSA)の観点から重要視されている。2024年の上場は、日本の宇宙産業が「官主導」から「民間主導のインフラ産業」へ移行する象徴的な事例となった。

掲載元:Deep Space 編集部 (アストロスケール 分析)

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