スタートアップ

3Dプリントロケットの米リラティビティ、大型機「テランR」でスペースXを追う

Deep Space 編集部3分で読了

該当する宇宙スキル標準

NO.9 プロジェクト統合マネジメントNO.30 流体制御設計・解析NO.28 熱/熱制御設計・解析

ポイント解説

  • 1.ロケットを「組み立てる工業製品」から「印刷するデジタルデータ」へと定義し直した製造革命である。
  • 2.同社の累計調達額13億ドルは、米国の宇宙スタートアップ平均の約10倍に相当する(PitchBook調べ)。
  • 3.SSS No.42 金属AMシミュレーション技術:大型構造物の熱歪みを予測し制御する高度な物理解析スキルが求められる。

3Dプリンターでロケットを製造する米Relativity Spaceを徹底分析。大型機テランRの技術的優位性や42億ドルの企業価値、日本市場への示唆をベテラン記者が解説。

米Relativity Space(リラティビティ・スペース)が宇宙輸送の常識を塗り替えようとしている。同社は世界最大級の金属3Dプリンターを自社開発し、ロケット部品の劇的な削減を実現した。2023年には世界初の3Dプリントロケット「テラン1」の試験飛行を成功させた(同社発表)。現在は大型の再利用型ロケット「テランR」の開発に、経営資源のすべてを集中させている。米中堅のロケット企業として、首位スペースXの牙城に挑む構えだ。

企業概要と創業の背景:元スペースXらによる製造革命

同社は2015年に、ティム・エリス氏とジョーダン・ヌーン氏によって共同設立された。エリス氏は米ブルー・オリジン、ヌーン氏は米スペースXの出身である(PitchBook調べ)。両名はロケット製造の自動化と高速化をミッションに掲げ、創業からわずか数年でユニコーン企業となった。従来のロケット製造には数千人の熟練工と、広大な組み立て工場が必要であった。同社はソフトウェア定義の製造プロセスにより、この高い参入障壁を打破することを目指している。

技術的優位性:独自プリンターで部品数を100分の1に削減

核となる技術は、独自開発の金属3Dプリンター「Stargate(スターゲート)」である。AI(人工知能)と大型ロボットアームを組み合わせ、複雑な形状の機体を一体成型する。部品数は従来のロケットの約10万点から、1000点以下まで減少した(同社発表)。これにより、設計から製造までの期間を24カ月から2カ月へ短縮できると主張する。材料には独自開発の高耐熱合金を使用し、エンジンの燃焼効率も高めている(同社公表資料)。

開発中の「テランR」は、LEO(低軌道)へ23.5トンの運搬能力を持つ大型機である。これはスペースXの主力機「ファルコン9」の約22.8トンに匹敵する性能だ。機体全体を再利用可能な設計とすることで、打ち上げコストを劇的に下げる戦略を採る。小型機「テラン1」で得た知見を基に、より市場需要の大きい中大型衛星の打ち上げを狙う。製造プロセスのデジタル化は、設計変更への迅速な対応も可能にしている。

財務・資金調達:バリュエーションは42億ドルに到達

これまでの累計調達額は13億ドル(約2000億円)を超える(Crunchbase調べ)。2021年のシリーズEラウンドでは、6億5000万ドルを一度に調達した。PitchBookによると、同社の企業価値は42億ドル(約6300億円)と評価されている。主な投資家には、フィデリティやブラックロックといった大手金融機関が名を連ねる。著名投資家のマーク・キューバン氏も初期から同社を強力に支援している。潤沢な資金は、カリフォルニア州にある100万平方フィートの拠点運営に充てられる。

市場ポジションと競合環境:スペースXが独占する市場へ参入

世界の宇宙産業市場は、2040年に1兆ドルを超えると予測されている(モルガン・スタンレー)。需要の中心は、数千基の衛星を連携させる通信衛星コンステレーションの構築である。現在はスペースXが圧倒的なシェアを誇り、価格決定権を握っている状態だ。リラティビティはテランRにより、同市場の「第2の選択肢」となることを目指す。すでにワンウェブなどの大手衛星運用企業から、数十億ドルの打ち上げ予約を獲得している。

日本市場への示唆:製造業のデジタル変革を促す脅威

同社の台頭は、日本の基幹ロケット「H3」などを開発する国内メーカーに強い危機感を与える。三菱重工業やIHIも3Dプリンターの活用を進めているが、機体全体をAM(アディティブ・マニュファクチャリング)化する構想では後塵を拝している。一方で、日本の精密加工技術や特殊鋼メーカーには、同社のサプライチェーンに食い込む好機もある。また、製造現場の自動化を推進できる「デジタル製造エンジニア」の需要が国内でも急増するだろう。

投資家向け評価:高い実行リスクと破壊的ポテンシャルの共存

投資家にとっての最大のリスクは、テランRの開発完遂と安定運用の不確実性である。テラン1の試験飛行では、第2段エンジンの点火に失敗し軌道投入を逃した(同社発表)。宇宙開発において、開発の遅延はキャッシュ燃焼を加速させる致命的な要因となる。しかし、製造コストを既存方式の数分の一にまで圧縮できれば、投資回収の可能性は飛躍的に高まる。ハードウェアをソフトウェアのように更新する手法は、投資対象として極めて魅力的である。

掲載元:Deep Space 編集部 (Relativity Space 分析)

推定読了 3

共有

記事を読んだ手がかりを、自分のスキルに接続する

宇宙スキル標準に沿ったAI診断で、経歴の位置づけを可視化。

AI診断へ