スタートアップ
天地人、衛星データでインフラ管理効率化 JAXA発ベンチャーの挑戦
該当する宇宙スキル標準
ポイント解説
- 1.衛星データによる「観測」を、産業別の意思決定に直結する「土地評価」へと昇華させたビジネスモデル。
- 2.シリーズAで累計11億円を調達し、水道管漏水調査コストを大幅削減する自治体向けSaaSで垂直立ち上げに成功。
- 3.JAXAの高度な技術知見を民間転用する「JAXAベンチャー」の成功モデルであり、SSS No.12(宇宙DX)の筆頭格。
JAXA発ベンチャー、株式会社天地人の企業情報を網羅。衛星データ解析エンジン「Tenchijin COMPASS」の技術的強み、水道管漏水検知などの導入実績、シリーズAの資金調達状況を解説。

## 企業概要
### 創業の背景とミッション
株式会社天地人は、2019年5月に設立されたJAXA(宇宙航空研究開発機構)発のスタートアップである。創業者の櫻庭康人氏は、JAXAにおいて地球観測衛星の開発や運用、データ解析アルゴリズムの構築に長年携わってきた専門家である。櫻庭氏は、宇宙から得られる膨大なデータが高度な専門知識を必要とするため、民間ビジネスにおいて十分に活用されていない現状に強い課題感を持っていた。この課題を解決するため、衛星データを誰もがビジネスに活用できる形に変換し、地球上のあらゆる土地の価値を可視化することを目指して同社を設立した。
同社のミッションは「宇宙の視点を、地球の未来に。」である。衛星データと地上データを組み合わせた独自の土地評価エンジン「Tenchijin COMPASS」を通じて、農業、インフラ、再生可能エネルギーなど、多様な産業における意思決定を最適化することを目指している。JAXAベンチャーとして、公的な研究機関が培った高度な技術を民間市場へ橋渡しする役割を担っている。
### 経営陣
代表取締役CEOの櫻庭康人氏は、東京理科大学大学院で物理学を専攻後、JAXAに入社。降水観測ミッション「GPM」などの大型プロジェクトで実績を積んだ。共同創業者で取締役COOの百瀬健一氏は、JAXAで宇宙ビジネスの創出を目的とした「J-SPARC」プログラムの立ち上げに携わった経歴を持つ。技術とビジネスの両輪をJAXA出身者が担うことで、宇宙技術の深い理解と市場ニーズの適合を同時に追求する体制を構築している。
## コア技術とプロダクト
### 技術概要
天地人のコア技術は、多種多様な衛星データと地上データを多層的に解析する土地評価エンジン「Tenchijin COMPASS」である。このエンジンは、光学衛星による画像データだけでなく、合成開口レーダー(SAR)による地表面の変位データ、さらには降水量、地表面温度、日射量、植生指数といった気象・環境データを統合的に処理する。JAXAが保有する高度な解析アルゴリズムをベースに、AI(人工知能)を用いた独自のデータ処理技術を組み合わせることで、特定の目的に対して「どの土地が最適か」を導き出すことができる。
この技術の独自性は、単なる「観測」に留まらず、物理モデルに基づいた「評価」を行う点にある。例えば、農業においては単に作物の生育状況を見るだけでなく、過去数十年の気象変動データと土壌特性を掛け合わせることで、将来的な栽培適地を予測することが可能である。また、インフラ管理においては、地中の水分含有量や地盤の微細な動きを推定することで、目視では確認できない異常を検知する。
### プロダクトライン
主力製品である「Tenchijin COMPASS」は、ブラウザ上で操作可能なクラウドサービスとして提供されている。ユーザーは特定の領域を指定するだけで、その土地の環境特性を可視化できる。この汎用エンジンをベースに、特定の産業に特化したソリューションを展開している。
特に注目を集めているのが、水道管漏水検知サービス「Tenchijin COMPASS KnoWater」である。これは衛星データを用いて広域の漏水リスクを解析するもので、従来の音聴棒を用いた人海戦術による調査と比較して、コストと時間を大幅に削減できる。2023年には、愛知県豊田市などの自治体で実証実験および本導入が進んでおり、老朽化するインフラ管理の切り札として期待されている。
また、農業分野では「宇宙ビッグデータ米」のプロジェクトを展開している。これは衛星データを用いて、気候変動下でも高品質な米を栽培できる最適な土地を選定し、栽培管理を行うものである。実際に収穫された米は市場に流通しており、データ活用による高付加価値農業の実証事例となっている。
## 資金調達と投資家
### 調達ラウンド
天地人は2023年9月、シリーズAラウンドにおいて約6億円(約400万ドル)の資金調達を実施した。このラウンドはSBIインベストメントをリード投資家とし、ソニーイノベーションファンド、リアルテックファンド、三菱UFJキャピタル、みずほキャピタルなどが参画した。これにより、累計調達額は約11億円(約733万ドル)に達した(PR TIMES, 2023/09/20)。
この資金調達の主な目的は、プロダクトの開発加速とグローバル展開の強化である。特に、水道管漏水検知サービスなどのインフラ向けソリューションの海外展開を見据え、エンジニアおよびビジネス開発人材の採用を強化している。また、衛星データの解析精度を向上させるための研究開発投資も継続して行っている。
### 主要投資家
主要投資家には、国内の有力VCおよびCVCが名を連ねている。シード期から支援しているリアルテックファンドは、ディープテック領域への投資に強みを持ち、JAXAベンチャーとしての技術力を高く評価している。シリーズAで加わったSBIインベストメントやメガバンク系のキャピタルは、同社のソリューションが自治体や大手企業といった広範な顧客基盤に導入される際のネットワーク支援を期待されている。ソニーイノベーションファンドの参画は、将来的なセンサー技術やデータプラットフォームでの連携を示唆している。
## 競合環境
### 主要競合
グローバル市場における競合としては、米国のOrbital InsightやDescartes Labsが挙げられる。これらの企業は、衛星画像から経済指標を予測したり、広域の環境モニタリングを行ったりするサービスを先行して展開している。国内では、SAR衛星を自社で運用するSynspectiveなどが、地盤変動解析の分野で競合関係にある。
### 差別化ポイント
天地人の差別化ポイントは、JAXAの知見を活かした「多層的な物理データ解析」にある。競合他社の多くが光学画像のAI解析(物体検知等)を主眼に置くのに対し、天地人は降水量や地表面温度といった、目に見えない物理量を高精度に推定する技術に強みを持つ。これにより、農業や水資源管理といった、生物的・物理的なプロセスが関与する領域で高い優位性を発揮する。
また、日本国内の自治体との強固なリレーションも大きな障壁となっている。水道管漏水検知のような公共性の高い事業において、JAXAベンチャーという信頼性と、国内のインフラ事情に最適化されたアルゴリズムは、外資系競合に対する強力な差別化要因となっている。
## 日本市場との関連
### 日本拠点・提携
天地人は東京都中央区に本社を置き、国内の自治体や企業と密接な連携を進めている。特に、米卸最大手の株式会社神明との提携では、衛星データを活用したコメの栽培適地選定から販売までを一気通貫で行うビジネスモデルを構築した。これは、単なるデータ提供に留まらない、実業に踏み込んだ日本独自の展開事例である。
### JAXA・政府との関係
同社はJAXAベンチャーとして認定されており、JAXAの知的財産を事業に活用する正式なライセンスを受けている。また、内閣府が主導する「宇宙開発利用加速化戦略プログラム(Stardust Program)」などの政府プロジェクトにも採択されており、日本の宇宙産業育成政策の中核を担う一社となっている。政府が推進する「デジタル田園都市国家構想」においても、衛星データを用いた地方インフラの効率化は重要なテーマであり、天地人の技術はその具現化事例として位置づけられている。
掲載元:Deep Space 編集部 (天地人 分析)
推定読了 5 分
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