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将来宇宙輸送システム、完全再使用型ロケット開発で11億円調達

Deep Space 編集部4分で読了

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NO.9 プロジェクト統合マネジメントNO.30 流体制御設計・解析

ポイント解説

  • 1.完全再使用型輸送機による「宇宙への高頻度輸送」の実現が、宇宙経済圏拡大のボトルネック解消の鍵となる。
  • 2.2024年1月にシリーズAで11億円を調達し、JAXAのSBIRフェーズ3にも採択され、最大20億円の交付が予定されている。
  • 3.SSS No.082:官僚出身の起業家が主導する、政策と技術が高度に融合した国家戦略的スタートアップである。

将来宇宙輸送システム株式会社の企業概要、資金調達状況、コア技術「ASCA」を解説。元経産省の畑田氏が率いる完全再使用型宇宙輸送機の開発ロードマップと、JAXAとの連携、競合比較を網羅。

## 企業概要

### 創業の背景とミッション

将来宇宙輸送システム株式会社(Innovative Space Carrier Inc.)は、2022年5月に設立された東京に拠点を置く宇宙スタートアップである。代表取締役の畑田真一朗氏は、経済産業省および内閣府宇宙開発戦略推進事務局において、日本の宇宙政策立案や法整備に長年携わってきた経歴を持つ。同氏は、日本の宇宙産業が国際競争力を維持するためには、輸送コストの劇的な低減と高頻度な打ち上げ能力の確保が不可欠であると判断し、官界から転身して同社を創業した。

同社のミッションは「誰もが自由に宇宙を行き来できる未来を作る」ことである。現在、世界の宇宙輸送市場は米SpaceX社の「Falcon 9」による再使用型ロケットが席巻しているが、将来宇宙輸送システムは、さらにその先を見据えた「完全再使用型」の輸送機開発を目指している。これにより、現在の航空機による国際移動に近い感覚で宇宙へアクセスできるインフラの構築を目標としている。

### 経営陣

経営陣は、代表の畑田氏を中心に、宇宙工学の専門家や事業開発のプロフェッショナルで構成されている。畑田氏は東京大学大学院で航空宇宙工学を専攻した技術的背景も持ち、政策面と技術面の両輪で事業を牽引する。また、取締役の今村圭志氏をはじめ、財務や戦略に強みを持つメンバーが参画し、大規模な資本投下が必要なロケット開発におけるガバナンス体制を構築している。

## コア技術とプロダクト

### 技術概要

同社の技術的特徴は、推進剤に液体酸素(LOX)と液化天然ガス(LNG)を採用したエンジン開発にある。LNGは従来のロケット燃料であるケロシンと比較して、燃焼時にススが発生しにくい特性を持つ。これにより、エンジン再使用時の洗浄・メンテナンスプロセスを簡略化でき、ターンアラウンドタイム(飛行間隔)の短縮とコスト削減が可能となる。また、単段式(SSTO)または二段式(TSTO)の機体構成を検討しており、最終的には垂直離着陸または滑走路への水平着陸を行う航空機型運用を目指している。

### プロダクトライン

同社は「ASCA(アスカ)」と名付けられた宇宙輸送機の開発ロードマップを提示している。

1. **ASCA-I(技術実証機)**: 高度100km程度のサブオービタル飛行を行い、再使用に必要な帰還技術や自律飛行制御を検証する機体である。2020年代半ばの試験飛行を計画している。

2. **ASCA-II(無人衛星輸送機)**: 人工衛星を地球低軌道(LEO)へ投入する能力を持つ完全再使用型機。小型衛星の打ち上げ需要を取り込むことを目的とする。

3. **ASCA-III(有人輸送機)**: 2030年代の実現を目指す、人間を搭乗させて宇宙空間へ輸送する機体である。宇宙旅行や軌道上での作業員輸送を想定している。

## 資金調達と投資家

### 調達ラウンド

同社は2024年1月、シリーズAラウンドのファーストクローズにおいて、総額11億円の資金調達を実施した。これにより、創業からの累計調達額は約14.1億円(約9.4M USD)に達した。この資金は、主にASCA-Iの開発に向けたエンジンの燃焼試験や機体設計、および人員の拡充に充てられる。2022年8月のシードラウンドではインキュベイトファンドから3.1億円を調達しており、着実な資本増強を継続している。

### 主要投資家

シリーズAのリード投資家は、SPARX Groupが運営する「宇宙フロンティア2号ファンド」が務めた。同ファンドはトヨタ自動車や三菱UFJ銀行などが出資しており、日本の宇宙産業育成を目的としている。また、三菱UFJキャピタル、SMBCベンチャーキャピタル、みずほキャピタルといった国内3大メガバンク系のVCが揃って出資している点は、同社の事業の公共性と将来性に対する高い信頼を示している。さらに、京銀リース・キャピタルや山口キャピタルといった地方金融機関の参画は、将来的な国内射場活用を見据えた地域連携の布石とも捉えられる。

## 競合環境

### 主要競合

グローバル市場では、SpaceXの「Starship」が最大の競合となる。Starshipは完全再使用を目指す超大型ロケットであり、既に試験飛行段階にある。国内では、サブオービタル飛行を目指すPDエアロスペースや、既存のH3ロケットをベースに再使用技術を研究する三菱重工業が競合および協力関係にある。また、米Sierra Spaceの「Dream Chaser」のような、滑走路に着陸する宇宙往還機も技術的な比較対象となる。

### 差別化ポイント

同社の差別化は、特定の打ち上げ需要に特化せず、高頻度運用を前提とした「システム全体の最適化」にある。大型ロケットが一度に大量の物資を運ぶのに対し、同社は中小型の機体による柔軟な打ち上げスケジュールを提供することを目指す。また、元官僚の知見を活かした法規制への適合能力は、日本国内での射場運用や有人飛行の認可取得において、他社に対する強力な参壁となる。JAXAのSBIRプログラムに採択されていることで、国家プロジェクトとしての位置付けを確保している点も大きい。

## 日本市場との関連

### 日本拠点・提携

本社を東京に置き、国内の大学や研究機関と連携して要素技術の開発を進めている。特に、再使用型エンジンの開発においては、国内の重工業メーカーや専門サプライヤーとのサプライチェーン構築を急いでいる。

### JAXA・政府との関係

同社は、文部科学省が推進する「革新的将来宇宙輸送システム」の実現に向けたロードマップにおいて、民間側の主要プレイヤーとして位置づけられている。2023年には、JAXAが実施する「中小企業イノベーション創出推進事業(SBIRフェーズ3)」の「再使用型宇宙輸送システム」に関するテーマに採択された。これにより、最大20億円の交付金が開発進捗に応じて支払われる予定であり、国の宇宙戦略と密接に連動した事業展開を行っている。

掲載元:Deep Space 編集部 (将来宇宙輸送システム 分析)

推定読了 4

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