スタートアップ

ElevationSpace、宇宙往還プラットフォーム開発で14億円調達

Deep Space 編集部6分で読了

該当する宇宙スキル標準

NO.9 プロジェクト統合マネジメントNO.32 化学推進(固体燃料)システム設計・解析

ポイント解説

  • 1.宇宙環境利用のボトルネックである「地球への回収」を、大学発の高度な再突入技術で商用化するインフラ事業である。
  • 2.シリーズAでの14億円調達に加え、JAXA SBIRによる最大105億円の公的支援枠を確保したことで、資本集約的な宇宙往還機開発における財務リスクを大幅に低減している。
  • 3.SSS No.042:アカデミアの知見を社会実装するディープテックの典型例であり、JAXAとの官民連携を通じた国家戦略級のプロジェクトに関与できる。

東北大学発の宇宙スタートアップElevationSpace。大気圏再突入技術とハイブリッドスラスターを強みに、宇宙環境利用プラットフォームELS-Rを開発。シリーズAで14億円調達、JAXA SBIR採択の事実を詳説。

## 企業概要

### 創業の背景とミッション

株式会社ElevationSpace(エレベーションスペース)は、2021年2月に設立された東北大学発の宇宙スタートアップである。同社は、2030年に運用終了が予定されている国際宇宙ステーション(ISS)のポストISS時代を見据え、宇宙空間での実験・製造を可能にする無人プラットフォーム「ELS-R」の開発を進めている。創業者の小林稜平氏は、東北大学在学中に人力飛行機開発の代表を務めた経歴を持ち、同大学の桒原聡文准教授および亀田敏弘教授の研究成果を社会実装するために同社を立ち上げた。

同社のミッションは「誰もが宇宙で生活できる世界を創り、人類の未来を変える」ことである。ISSで行われてきた微小重力環境での創薬実験や材料開発のニーズは、ISS退役後も継続・拡大すると予測されている。ElevationSpaceは、宇宙空間での実験環境を提供するだけでなく、その成果物を地球に安全に持ち帰る「回収」のプロセスを商用化することで、宇宙を「行く場所」から「利用する場所」へと変革することを目指している。

### 経営陣

代表取締役CEOの小林稜平氏は、学生時代から宇宙開発に深く関わり、Forbes JAPANの「30 UNDER 30 JAPAN」に選出されるなど、次世代の宇宙実業家として注目されている。技術面を支えるのは、取締役CTOの亀田敏弘氏である。亀田氏は東北大学大学院工学研究科の教授であり、構造力学および大気圏再突入技術の専門家である。同氏の長年の研究成果が、同社の再突入カプセルの設計基盤となっている。また、アドバイザーとして超小型衛星開発の権威である桒原聡文氏が参画しており、アカデミアの高度な知見とスタートアップの機動力を融合させた経営体制を構築している。

## コア技術とプロダクト

### 技術概要

ElevationSpaceのコア技術は、大きく分けて「大気圏再突入技術」と「ハイブリッドスラスター」の2点に集約される。大気圏再突入技術は、宇宙空間から地球へ戻る際に発生する数千度の熱からペイロード(搭載物)を保護する熱防御システム(TPS)の設計技術である。これは軍事転用可能な機微技術でもあり、世界的に見ても保有する企業は極めて限定的である。東北大学で30年以上にわたり蓄積された再突入解析データと実験実績が、同社の高い技術的障壁(参入障壁)となっている。

二つ目のハイブリッドスラスターは、固体燃料と液体酸化剤を組み合わせた推進系である。従来の人工衛星で多用されるヒドラジンなどの液体燃料は、極めて毒性が高く、防護服を着用した特殊な作業が必要となるため、地上運用コストを押し上げる要因となっていた。一方、同社が開発するハイブリッドスラスターは、燃料にプラスチック等の安全な物質を使用するため、取り扱いが容易で低コストな運用が可能となる。この推進系により、軌道離脱から再突入に向けた精密な制御を実現する。

### プロダクトライン

同社の主力プロダクトは、宇宙環境利用・回収プラットフォーム「ELS-R」シリーズである。現在、2025年度の打ち上げを目指して技術実証機「ELS-R100」の開発が進行中である。ELS-R100は、高度約500kmの軌道上に投入され、数ヶ月間の運用後に大気圏に再突入し、カプセルを回収する一連のプロセスを実証する。この実証に成功すれば、日本初の民間企業による高頻度な宇宙往還サービスの実現に大きく近づく。

将来的には、より大型で高度な実験設備を備えた「ELS-R1000」の展開を計画している。ELS-R1000では、製薬会社や材料メーカーが数ヶ月単位で微小重力環境を占有し、高品質なタンパク質結晶の生成や新素材の開発を行うことが想定されている。また、宇宙空間での製造(In-Space Manufacturing)の拠点としての活用も視野に入れている。

## 資金調達と投資家

### 調達ラウンド

ElevationSpaceは2024年1月、JAFCO Groupをリード投資家として、総額約14億円(約9.3百万ドル)のシリーズA資金調達を実施した。これにより、累計調達額は約15億円(約10百万ドル)に達した。この資金は、ELS-R100の開発加速、地上試験設備の拡充、およびエンジニアを中心とした人材採用の強化に充てられる。2021年のシードラウンドでは、ジェネシア・ベンチャーズや東北大学ベンチャーキャピタルから約1億円を調達しており、段階的に企業価値を高めている。

また、同社は2023年10月、経済産業省が主導しJAXAが執行団体を務める「中小企業イノベーション創出推進事業(SBIRフェーズ3)」に採択された。この事業では、目標達成に応じて最大105億円の交付金が支払われる可能性があり、民間VCからの資金と公的資金を組み合わせた強固な財務基盤を構築している。これは、同社の技術が日本の宇宙産業戦略において極めて重要であると認められた結果と言える。

### 主要投資家

主要投資家には、日本最大手のVCであるJAFCO Groupをはじめ、シード期から支援を続けるジェネシア・ベンチャーズ、大学発ベンチャーの支援に特化した東北大学ベンチャーキャピタルが名を連ねる。また、三菱UFJキャピタル、SMBCベンチャーキャピタル、みずほキャピタルといったメガバンク系VCが揃って参画している点は、同社の事業の確実性と将来のIPO(新規株式公開)への期待値の高さを示唆している。

## 競合環境

### 主要競合

グローバル市場における直接的な競合は、米国のVarda Space Industriesである。Vardaは既に軌道上での創薬実験とカプセル回収に成功しており、先行している。また、英国のSpace Forgeも同様の宇宙製造プラットフォームを開発中である。国内においては、宇宙環境利用の窓口業務を行うSpace BDが競合または協調関係にあるが、自社で再突入カプセルと推進系を開発し、回収までを一気通貫で行う垂直統合型のモデルを採用している点において、ElevationSpaceは独自のポジションを築いている。

### 差別化ポイント

同社の差別化ポイントは、低コストなハイブリッドスラスターと、東北大学の知見に基づく高信頼な再突入技術の組み合わせにある。Varda等の米国勢が大型の打ち上げ能力を背景にする一方、ElevationSpaceは超小型衛星の技術を応用したダウンサイジングにより、特定の顧客ニーズに合わせた柔軟な実験環境を低価格で提供することを目指している。また、日本国内に回収拠点を確保できれば、サンプル回収から分析までのリードタイムを大幅に短縮できるという地理的優位性も、国内の製薬・材料メーカーにとっては大きな魅力となる。

## 日本市場との関連

### 日本拠点・提携

同社は宮城県仙台市に本社を置き、東北大学との密接な連携を維持している。地方発のディープテックスタートアップとして、地域の製造業とのサプライチェーン構築にも注力している。また、三井物産エアロスペースとのMOU締結により、将来的なサービスの販売網構築を進めているほか、損害保険ジャパンと宇宙保険の共同研究を行うなど、宇宙ビジネスの周辺エコシステムの形成にも寄与している。

### JAXA・政府との関係

JAXAとは「J-SPARC」を通じた共創活動を行っており、技術・事業の両面で指導を受けている。特にSBIRフェーズ3への採択は、同社を「準官製」のプロジェクトとして位置づけるものであり、日本の宇宙安全保障や産業競争力強化の観点から、政府の強力なバックアップを受けている。これは、将来的な政府ミッションの受託や、国際的な信頼獲得において極めて有利に働く要素である。

掲載元:Deep Space 編集部 (ElevationSpace 分析)

推定読了 6

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