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ワープスペース、光衛星間通信の商用化へ加速 25年の初号機打ち上げ目指す

Deep Space 編集部5分で読了

該当する宇宙スキル標準

NO.37 電源コンポーネント(パワーエレクトロニクス)設計・解析NO.28 熱/熱制御設計・解析

ポイント解説

  • 1.衛星データの価値を決定づける「通信遅延」を、MEOリレーという独自のアーキテクチャで解決するインフラ事業である。
  • 2.シリーズBで海外PEから約7.2億円を調達した事実は、同社の光通信技術が日本の枠を超え、グローバルな安全保障・商業市場で通用する水準にあることを示唆する。
  • 3.SSS No.12:宇宙通信インフラの構築は、ハードウェア開発からネットワーク運用まで多層的な専門性を要する最難関プロジェクトである。

筑波大学発の宇宙スタートアップ、ワープスペース。中軌道光中継衛星ネットワークによる高速大容量通信の実現を目指す。資金調達状況、コア技術、競合比較を詳説。

## 企業概要

### 創業の背景とミッション

株式会社ワープスペースは、2016年に筑波大学発のベンチャー企業として設立された。創業者の亀田敏弘氏は、同大学で宇宙工学を専門とする准教授であり、超小型衛星の構造設計や材料研究において長年の実績を有する。設立の背景には、宇宙空間におけるデータ通信のボトルネック解消という明確な課題意識が存在する。現在、低軌道(LEO)を周回する地球観測衛星は急増しているが、観測データを地上へ送信する手段は依然として電波通信が主流である。電波通信は地上局との可視範囲でしか通信できず、データ転送の待機時間が数時間に及ぶことも少なくない。ワープスペースは、この「通信の空白」を光通信技術によって埋めることをミッションに掲げている。

### 経営陣

経営体制は、技術的背景を持つ創業者と、ビジネス経験豊富なプロフェッショナルによるハイブリッド構成をとる。2022年には、三菱電機で宇宙システム事業に従事した経験を持つ東宏充氏がCEOに就任した。東氏は、長年日本の宇宙開発を支えてきた産業界の知見をスタートアップの機動力と融合させる役割を担う。また、共同創業者の常間地悟氏は、戦略担当としてグローバル展開や資金調達を主導する。取締役会には、宇宙工学や政策の専門家が名を連ね、技術的妥当性と事業戦略の両面から経営を支える体制を構築している。

## コア技術とプロダクト

### 技術概要

ワープスペースの核心技術は、1.55μm帯のレーザーを用いた衛星間光通信である。従来の電波通信(XバンドやKaバンド)と比較して、光通信は周波数帯域が広く、1Gbpsを超える高速大容量通信が可能となる。また、電波のように干渉の問題がなく、秘匿性が高いという特徴を持つ。同社の技術的独自性は、中軌道(MEO)に中継衛星を配置するアーキテクチャにある。高度約2,000kmから35,000kmの中軌道は、低軌道衛星を広範囲にカバーできるため、わずか3基の衛星で地球全土を網羅する通信ネットワークを構築できる。宇宙空間で数千キロメートル離れた衛星同士が光軸を合わせ続ける「高精度ポインティング・トラッキング技術」が、同社の最大の技術的参入障壁となっている。

### プロダクトライン

主力プロダクトは、光中継衛星ネットワーク「WarpHub InterSat」である。これは、顧客である観測衛星事業者が、自社の衛星にワープスペース製の光通信端末「Warp-A」を搭載することで、いつでもどこでも地上へデータを送信できるサービスである。2025年の初号機打ち上げを目指し、現在はエンジニアリングモデル(EM)からフライトモデル(FM)への開発フェーズにある。このネットワークが完成すれば、災害発生時の被災状況把握や、船舶の動静監視などのリアルタイム性が求められる分野において、劇的なサービス向上が見込まれる。

## 資金調達と投資家

### 調達ラウンド

ワープスペースは、これまでに累計で約15億円(約1,150万ドル)を超える資金を調達している。2021年3月のシリーズAラウンドでは、慶應イノベーション・イニシアティブ(KII)をリードとして約4億円を調達した。2023年11月には、シリーズBのファーストクローズとして、アジア圏のプライベート・エクイティであるオリンパス・キャピタル・ホールディングス・アジアから約7.2億円の出資を受けた。この調達は、同社が国内市場のみならず、アジアおよびグローバル市場での成長性を評価された結果といえる。2024年5月にもブリッジラウンドでの調達を実施しており、開発資金の確保を継続している。

### 主要投資家

投資家層は多岐にわたる。KIIや三菱UFJキャピタルといった国内トップクラスのVC/CVCに加え、政府系のJICベンチャー・グロース・インベストメンツが参画している点は、同社の事業が日本の宇宙産業戦略において重要視されていることを示唆する。また、三井住友海上火災保険との提携は、宇宙保険という金融インフラの側面から事業の安定性を高める戦略的意味を持つ。オリンパス・キャピタルの参画は、今後の海外展開、特に米国やアジアでの事業拡大に向けた強力なバックアップとなる。

## 競合環境

### 主要競合

光衛星間通信の分野では、ドイツのMynaricやTesat-Spacecom、米国のSkyloomなどが主な競合となる。特にMynaricは、SpaceXのStarlinkプロジェクトなどにも採用されるなど、ハードウェア供給において先行している。また、米国政府が進める宇宙開発プロジェクト「SDA(Space Development Agency)」の通信レイヤー構築においても、複数の米国企業が競合関係にある。

### 差別化ポイント

ワープスペースの差別化は、ハードウェア単体の販売ではなく「中継ネットワークサービス」を提供することにある。競合の多くが光通信端末のメーカーであるのに対し、同社は自ら中継衛星を運用し、通信インフラそのものを提供する。これにより、顧客は高価な地上局ネットワークを自前で構築・維持する必要がなくなり、OPEX(運用コスト)の削減が可能となる。また、中軌道(MEO)を利用する戦略は、低軌道(LEO)での混雑を避けつつ、広域カバーを実現する独自のポジショニングである。さらに、米国法人を通じて米国政府の安全保障ニーズを取り込む「Dual-use」戦略を明確にしており、日本の技術力と米国の市場規模を掛け合わせる戦略をとる。

## 日本市場との関連

### 日本拠点・提携

本社を茨城県つくば市に置き、JAXA筑波宇宙センターや筑波大学との地理的近接性を活かした開発を行っている。国内のサプライヤーとの連携も深く、日本の精密加工技術を宇宙用コンポーネントに昇華させている。

### JAXA・政府との関係

JAXAのJ-SPARCプログラムを通じて、光通信の標準化や実用化に向けた共同研究を行っている。また、経済産業省のSBIR事業に採択されるなど、政府の宇宙産業育成策の恩恵を直接的に受けている。日本政府が掲げる「宇宙安全保障構想」において、光通信は電波妨害に強い次世代通信インフラとして位置づけられており、ワープスペースはその中核企業としての役割が期待されている。

掲載元:Deep Space 編集部 (Warpspace 分析)

推定読了 5

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