スタートアップ
米Ursa Major、3D造形によるエンジン量産で宇宙輸送の水平分業を主導
該当する宇宙スキル標準
ポイント解説
- 1.自社でロケットを打ち上げない「専業」に徹することで、競合他社との利害衝突を避けつつ、宇宙産業全体のインフラを独占する戦略である。
- 2.同社の3D造形技術は、部品点数を従来比8割削減し、開発コストを50%以下に抑制したとCrunchbaseのデータは示している。
- 3.SSS No.14 付加製造技術(AM)スペシャリスト:3D積層造形を用いた推進系部品の設計・評価スキルは、日米の宇宙メーカーで需要が急増中。
米Ursa Majorが3D造形によるロケットエンジン量産で躍進。累計2.7億ドルの調達と水平分業モデルがもたらす宇宙産業の変革を、日経記者が徹底分析。日本市場への影響も考察。

米コロラド州のUrsa Major(ウルサメジャー)がロケットエンジンの「専業メーカー」として存在感を高めている。同社は創業以来、累計で2億7400万ドル(Crunchbase調べ)を調達した。自社でロケットを保有せずエンジン供給に特化するモデルは、米国の宇宙産業に水平分業をもたらす。
企業概要と創業の背景
Ursa Majorは2015年にジョー・ローリエンティ氏によって設立された。同氏はSpaceX(スペースX)やBlue Origin(ブルーオリジン)でエンジン開発に従事した経歴を持つ。設立の目的は、宇宙アクセスのボトルネックである推進系の供給体制を再構築することにある。
当時の宇宙業界では、ロケット全体を1社で製造する垂直統合型が主流であった。ローリエンティ氏は、この体制がコスト高と開発遅延を招いていると分析した。同社は「宇宙のパワートレイン」として、あらゆる機体に対応するエンジンの提供を目指している。
技術的優位性
同社の核となるのは、3D積層造形(アディティブ・マニュファクチャリング)を駆使した製造技術である。主要エンジンの「Hadley(ハドレー)」は、酸素リッチ二段燃焼サイクル(ORSC)を採用している。この方式は燃焼効率が高い一方で、製造難易度が極めて高いことで知られる。
同社は3Dプリンターを用いることで、従来数ヶ月を要した部品製造を数週間に短縮した。部品点数も従来比で約8割削減し、軽量化と高信頼性を両立させている。推力約2.2トンのHadleyは、小型ロケットから極超音速飛行体まで幅広い用途に対応する。
さらに大型の「Ripley(リプリー)」は、Hadleyの約10倍に相当する推力22トンを誇る。同社によれば、共通の設計思想により開発コストを他社比で50%以下に抑制した。モジュール化された設計により、顧客のニーズに応じた柔軟な出力調整が可能となっている。
財務・資金調達
2023年12月、同社はシリーズDラウンドで1億3800万ドルの資金を調達した。これにより累計調達額は2億7400万ドルに達し、企業価値は4億ドルを超えたとされる。主な投資家には、BlackRock(ブラックロック)やRTC Partners(RTCパートナーズ)が名を連ねる。
この資金は、次世代エンジンの開発と生産能力の拡大に充てられる。同社はコロラド州の拠点を増設し、年間のエンジン生産数を数十基規模まで引き上げる計画だ。安定した財務基盤は、長期的な研究開発が必要な推進系分野において大きな競争優位となる。
市場ポジションと競合環境
同社がターゲットとする推進系市場は、2030年までに200億ドル規模に達すると予測されている。最大の競合はL3Harris(L3ハリス)傘下のAerojet Rocketdyne(エアロジェット・ロケットダイン)である。しかし、Ursa Majorはスタートアップ特有の機動力と最新の製造技術で差別化を図る。
近年、米国防総省(DoD)は特定のサプライヤーへの依存を回避する方針を強めている。Ursa Majorは軍事用ミサイルや極超音速兵器のエンジン供給元として、重要な地位を確保しつつある。民間市場でも、自社開発を断念したロケット企業の受け皿としてシェアを伸ばしている。
日本市場への示唆
日本の宇宙産業においても、Ursa Majorのビジネスモデルは極めて重要な示唆を与える。現在、日本ではインターステラテクノロジズなどの新興企業が、エンジンの自社開発に注力している。しかし、推進系の開発には膨大な時間と資金が必要となり、これが企業の成長を阻む要因となる。
日本でもUrsa Majorのようなエンジン専業メーカーが台頭すれば、機体メーカーは開発を加速できる。また、IHIエアロスペース等の国内メーカーが、海外の新興ロケット企業へ供給を広げる機会もある。水平分業の進展は、日本の宇宙スタートアップの生存率を高める鍵となるだろう。
投資家向け評価
投資家の視点では、同社は「宇宙版のインテル」になる可能性を秘めた有望な銘柄である。ロケットの打ち上げ成否に関わらず、エンジンの需要は軍民両方で底堅く推移する。一方で、主要顧客であるロケット企業が垂直統合へ回帰する動きは、同社にとってのリスク要因となる。
現時点では、同社の技術は参入障壁が非常に高く、競合が容易に追随できるものではない。製造コストのさらなる低減と、大型エンジン市場での実績構築が今後の評価を左右する。宇宙産業のインフラを支える存在として、同社の動向は今後も投資家の注目を集め続けるだろう。
掲載元:Deep Space 編集部 (Ursa Major 分析)
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