スタートアップ
米ストーク・スペース、完全再使用型ロケット開発で1億ドル調達
該当する宇宙スキル標準
ポイント解説
- 1.ロケット第2段の再使用における「熱防護システムの保守性」というボトルネックを、金属製再生冷却技術で解決しようとする試みである。
- 2.シリーズBでの1億ドル調達は、2023年の厳しい資金調達環境下でも、垂直離着陸試験の成功という具体的マイルストーンが評価された結果である。
- 3.SSS No.01(宇宙輸送インフラ)に該当し、ブルー・オリジンの初期メンバーによる「第2のスペースX」を目指す精鋭エンジニア集団である。
元Blue Originのエンジニアが創業したStoke Space。100%再使用可能なロケットNovaの開発、独自のヒートシールド技術、1億ドルの資金調達、垂直離着陸試験の成功について解説。

## 企業概要
### 創業の背景とミッション
ストーク・スペース・テクノロジーズ(Stoke Space Technologies)は、2019年にワシントン州ケントで設立された宇宙輸送スタートアップである。創業者のアンディ・ラプサ(Andy Lapsa)氏とトーマス・フェルドマン(Thomas Feldman)氏は、いずれもジェフ・ベゾス氏率いるブルー・オリジン(Blue Origin)の出身である。ラプサ氏は同社で10年間、BE-3エンジンの開発を主導した実績を持つ。彼らのミッションは、ロケットの「完全再使用」を実現することで、宇宙へのアクセスを航空機並みの頻度とコストにまで引き下げることにある。
現在のロケット市場では、スペースX(SpaceX)のファルコン9(Falcon 9)が第1段の再使用を実用化しているが、第2段(上段)は依然として使い捨てられている。ストーク・スペースは、この「最後の難関」である第2段の再使用化に特化した技術開発を行っている。同社は、宇宙産業の持続可能な成長には、機体全体の100%再使用が不可欠であると主張する。
### 経営陣
経営陣はブルー・オリジンでの豊富な実務経験を基盤としている。CEOのアンディ・ラプサ氏は、ミシガン大学で航空宇宙工学の博士号を取得し、推進システムの専門家として知られる。CTOのトーマス・フェルドマン氏は、スタンフォード大学で修士号を取得し、複雑なシステム統合と構造設計に強みを持つ。この強力なエンジニアリング・バックグラウンドが、同社の技術的信頼性の源泉となっている。
## コア技術とプロダクト
### 技術概要
ストーク・スペースのコア技術は、第2段ロケットの再使用を可能にする革新的な設計にある。最大の特徴は、機体底部に配置された「再生冷却式メタリック・ヒートシールド」である。従来の再突入体はセラミックタイルや切除材(アブレーション材)で熱を凌ぐが、これらは損傷しやすく、飛行ごとの交換や詳細な検査が必要となる。一方、同社の技術は、ロケットの推進剤をヒートシールド内部に循環させて冷却する仕組みを採用する。これにより、構造的な耐久性を維持しつつ、迅速な再飛行を可能にする。
また、エンジン構成も独特である。従来のベル型ノズルではなく、ヒートシールドの外周に沿って多数のスラスターを配置する「統合型環状エンジン」を採用している。この設計は、大気圏再突入時にエンジン自体が熱から保護される構造となっており、再使用時の信頼性を飛躍的に高める。この方式は、高度に応じて排気の膨張効率を最適化するエアロスパイキ・エンジンの効果も併せ持つとされる。
### プロダクトライン
主力プロダクトは、中型ロケット「Nova(ノヴァ)」である。Novaは、第1段と第2段の両方が垂直離着陸(VTVL)を行い、100%の再使用を前提に設計されている。2023年9月には、技術実証機「Hopper」を用いて、ワシントン州のモーゼスレイクにて垂直離着陸試験を実施した。この試験では、高度約9メートルまで上昇し、独自のヒートシールドとエンジンシステムを作動させた後、指定の地点に着陸することに成功した。これにより、第2段の再使用に向けた重要なマイルストーンを達成したと発表している。
## 資金調達と投資家
### 調達ラウンド
ストーク・スペースは、2023年10月にシリーズBラウンドで1億ドルの資金調達を完了した。このラウンドはインダストリアス・ベンチャーズ(Industrious Ventures)がリードし、ミシガン大学や既存投資家のブレイクスルー・エナジー・ベンチャーズ(Breakthrough Energy Ventures)などが参加した。これにより、累計調達額は約1億7,410万ドルに達した。調達した資金は、Novaの軌道投入試験に向けた開発加速と、製造施設の拡充に充てられる。
### 主要投資家
同社の投資家リストには、著名なファンドが名を連ねている。特に、ビル・ゲイツ氏が設立したブレイクスルー・エナジー・ベンチャーズの参画は、同社の技術が環境負荷の低減(使い捨てによる廃棄物削減)に寄与することを裏付けている。また、Yコンビネータ(Y Combinator)やスパーク・キャピタル(Spark Capital)など、シリコンバレーの有力VCも初期から支援を続けており、技術の独創性と市場性が高く評価されている。
## 競合環境
### 主要競合
最大の競合は、スペースXの「Starship(スターシップ)」である。Starshipも完全再使用を目指しているが、その規模は超大型であり、ストーク・スペースのNovaがターゲットとする中型ロケット市場とは棲み分けがなされる可能性がある。他には、ロケット・ラボ(Rocket Lab)の「Neutron(ニュートロン)」や、リラティビティ・スペース(Relativity Space)の「Terran R(テランR)」が、第1段の再使用や一部再使用を掲げて開発を進めている。
### 差別化ポイント
ストーク・スペースの差別化要因は、第2段の「ターンアラウンドタイム」の短縮に特化した設計である。他社がセラミックタイルのメンテナンスに課題を抱える中、金属製ヒートシールドによる「24時間以内の再飛行」という目標は、打ち上げ頻度の劇的な向上を意味する。また、中型ロケットというサイズ感は、特定の軌道への迅速な投入を求める政府系顧客や小型衛星コンステレーション事業者にとって、大型ロケットの相乗り(ライドシェア)よりも柔軟な選択肢を提供する。
## 日本市場との関連
### 日本拠点・提携
現時点で、ストーク・スペースが日本国内に拠点を設置したり、日本企業と資本提携を行ったりした事実は確認されていない。同社は現在、米国国内での開発と試験、およびケープカナベラルでのインフラ整備に注力している段階にある。
### JAXA・政府との関係
日本政府やJAXAとの直接的な協力関係も現時点ではない。しかし、米国防総省(DoD)との契約実績(SBIRプログラム等)があることから、将来的に日米の宇宙安全保障協力の枠組みの中で、同社の低コスト輸送能力が注目される可能性は否定できない。日本の宇宙基本計画においても、輸送コストの低減は重要課題とされており、同社の技術動向は日本の宇宙政策関係者にとっても注視すべき対象である。
掲載元:Deep Space 編集部 (Stoke Space 分析)
推定読了 5 分
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