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Pale Blueが水推進機で宇宙輸送に変革、小型衛星向け需要を狙う

Deep Space 編集部4分で読了

該当する宇宙スキル標準

NO.9 プロジェクト統合マネジメントNO.30 流体制御設計・解析

ポイント解説

  • 1.水という普遍的資源を燃料に変え、宇宙輸送のコスト構造と安全基準を根底から覆す。
  • 2.水推進機はキセノン比で燃料費を100分の1以下に抑制し、法規制対応コストも削減する(同社推計)。
  • 3.SSS No.08 推進システム設計:プラズマ物理と高信頼性量産設計の統合が、日本発の宇宙部品シェア獲得の鍵となる。

水を燃料にする宇宙ベンチャーPale Blueを分析。小型衛星向け推進機の技術的優位性や15億円の資金調達、世界市場での競合環境、日本国内への経済波及効果をベテラン記者が解説。

宇宙ベンチャーのPale Blue(ペールブルー、千葉県柏市)が「水」を燃料とする推進機で宇宙輸送の革新を急ぐ。

同社は2020年に設立された東京大学発のスタートアップである。水をプラズマ化して噴射する独自の推進技術を核に、小型衛星の長寿命化に挑む。

2023年にはシリーズBで約10億円の資金調達を実施した(同社発表)。累計調達額は約15億円に達し、量産体制の構築と海外進出を加速させている。

東大発ベンチャーが挑む究極の地産地消

Pale Blueの創業者は、東京大学で推進工学を専攻した浅川純代表取締役である。同氏は学生時代から小型衛星用エンジンの研究に従事してきた。

「宇宙を、持続可能な場所に」というミッションを掲げ、2020年に同社を設立した。水という安全で普遍的な物質を燃料に選んだ点が最大の特徴だ。

従来の衛星用推進機は、キセノンなどの高価かつ希少なガスを燃料としてきた。これに対し、水は調達コストが極めて低く、環境負荷も小さい。

将来的に月や小惑星で水が採取できれば、宇宙での「燃料補給」も現実味を帯びる。同社はこの「宇宙の地産地消」の実現を最終目標に据えている。

安全性とコストを両立する技術的優位性

同社の技術的強みは、低圧で水を保管し、必要に応じて気化・プラズマ化する点にある。これにより、高圧ガスを扱う際の複雑な法規制を回避できる。

高圧ガス保安法の適用外となるため、ロケット発射場での作業コストを大幅に削減可能だ。これは、運用コストを重視する民間衛星事業者にとって大きな利点となる。

水推進機には、電熱式の「レジストジェット」とプラズマ式の「イオンエンジン」の2種類がある。用途に応じて推力と効率を使い分けることが可能だ。

キセノンを用いる競合製品と比較し、燃料単価を100分の1以下に抑制できる(同社推計)。このコスト競争力が、数千基規模のコンステレーション(衛星群)構築を後押しする。

2023年1月には、ソニーグループの超小型衛星「EYE」に搭載された推進機の動作実証に成功した。これにより、水推進機の実用性を世界に先駆けて証明した。

15億円の資金で量産体制と海外展開を加速

Pale Blueは2023年10月、シリーズBラウンドで約10億円を調達した(官民ファンドなどの発表)。主要投資家には、インキュベイトファンドなどが名を連ねる。

調達した資金は、千葉県柏市に設置した新工場の設備投資と人員増強に充てられる。月産数台規模から、年産100台規模への生産能力拡大を目指す。

同時に、米国市場への進出も強化している。世界最大の宇宙市場である米国に拠点を構え、現地の衛星メーカーとの接点を増やす戦略だ。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)の革新的衛星技術実証プログラムにも採択されている。官民両輪での支援を受け、技術の信頼性を高めている状況だ。

群雄割拠の小型衛星推進機市場での立ち位置

米衛星産業協会(SIA)によれば、2022年の世界衛星産業市場は2810億ドルに達した。このうち、小型衛星の打ち上げ数は前年比で急増している。

競合には、米フェイズ・フォーや仏スラスト・ミーなどの有力スタートアップが並ぶ。しかし、水の採用とシステムの簡素化でPale Blueは差別化を図る。

多くの競合がキセノンやヨウ素を使用する中、水の安全性は圧倒的な優位性を持つ。特に有人宇宙施設に近い軌道での運用において、水は爆発のリスクがないため好まれる。

同社は、100キログラム(kg)以下の超小型衛星市場で高いシェア獲得を狙う。この領域は今後5年で数千基の需要が見込まれる成長分野だ(民間調査会社調べ)。

日本国内の宇宙部品サプライチェーンへの波及

日本市場において、同社の成長は国内の宇宙産業サプライチェーンの強化に直結する。精密加工や電子回路設計など、国内の中小企業の技術活用が不可欠だ。

現在、同社の製品開発には多くの国内部品メーカーが協力している。宇宙仕様の品質管理ノウハウが国内企業に蓄積される波及効果は大きい。

また、高度なプラズマ制御技術や流体解析のスキルを持つ人材の需要が高まっている。航空宇宙工学のみならず、化学や材料科学の知見も求められる。

日本が「宇宙輸送のハブ」となるためには、こうした基幹部品の国産化が鍵を握る。Pale Blueはその象徴的な存在として期待を集めている。

投資家向け評価:VC視点のリスクと機会分析

ベンチャーキャピタル(VC)の視点では、水推進機は宇宙のサステナビリティという潮流に合致する。ESG投資の枠組みからも、高い評価を得やすい事業領域だ。

一方で、リスクとしては推力の限界が挙げられる。水はキセノンに比べ分子量が小さく、大型衛星を動かすにはより多くの電力や巨大な装置が必要となる。

そのため、ターゲットとする衛星の重量サイズをどこまで拡大できるかが成長の分岐点となる。大型衛星市場への進出には、さらなる技術革新が求められる。

しかし、小型衛星の低軌道(LEO)維持やデオービット(大気圏突入による廃棄)需要は確実にある。市場の黎明期において、実績を積んでいる点は強みである。

同社が描く「水による宇宙循環経済」の構想は、長期的な投資価値を有している。技術実証から商用フェーズへの移行が、今後のバリュエーションを左右するだろう。

掲載元:Deep Space 編集部 (Pale Blue 分析)

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