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Arianespace Vega-C、信頼回復が欧州の喫緊課題

Deep Space 編集部5分で読了

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NO.3 シナリオプランニングNO.7 ユーザビリティ(UX)設計NO.12 コストマネジメント

ポイント解説

  • 1.ロケット打ち上げの失敗は、技術的課題解決能力とサプライチェーン管理の重要性を浮き彫りにし、市場競争力と国家の自律的宇宙アクセス能力に直接影響する。
  • 2.ArianespaceのVega-Cは、2022年12月21日の2回目飛行で第2段Zefiro 40エンジンのノズル焼損により失敗し、欧州の小型衛星市場における打上げサービスの供給不安を高めていると見られる。
  • 3.SSS No. 003 リスク管理:ロケット打ち上げにおける技術的・運用的リスクを特定し、失敗から学び、是正措置を講じるプロセスは、事業継続性確保に不可欠である。

ArianespaceのVega-Cロケットは、2回目飛行の失敗で第2段エンジンのノズル焼損が原因と特定。欧州の自律的宇宙アクセスと小型衛星市場での競争力維持のため、信頼回復と運航再開が急務。

欧州のロケット打上げサービス大手アリアンスペースは、小型衛星打上げロケットVega-C(ベガ-C:欧州の小型衛星打上げロケット)について、2022年12月21日の2回目飛行で失敗を経験した。仏領ギアナのギアナ宇宙センターからの打上げ中に、第2段(ロケットの複数の推進部を構成する要素の一つ)Zefiro 40エンジンでノズル焼損(ロケットエンジンの排気口が高温ガスで侵食され、損傷する現象)が発生したためである。独立調査委員会が原因を特定し、包括的な是正措置を勧告した。欧州の自律的宇宙アクセス(特定の国や地域が、他国の支援なしに自力で宇宙空間へアクセスできる能力)確保のため、Vega-Cの信頼回復と今後の運用再開が喫緊の課題と見られる。

### Vega-Cの概要と欧州の自律的宇宙アクセス

Arianespace(アリアンスペース)は、欧州の主要なロケット打上げサービスプロバイダーである。同社は、欧州宇宙機関(ESA: European Space Agency)のプログラムであるVega-Cロケットの商業運用を担う。Vega-Cは、小型から中型の衛星を低軌道(LEO: Low Earth Orbit)へ投入することに特化した打上げロケットである。欧州にとって、自律的な宇宙アクセスを確保するための重要な手段の一つと位置付けられるとアリアンスペースは説明する。

Vega-Cは、先行するVega(ベガ)ロケットの性能向上型である。ペイロード(搭載物)能力は、初代Vegaの約1.5倍に向上した。低軌道には最大2.3トンを投入できる能力を持つ。これは初代Vegaの約1.5トンと比較して大幅な増強である。ロケットの全長は34.8メートル、直径は3.3メートルだ。Guiana Space Centre(ギアナ宇宙センター)から打上げられる。

Vega-Cは、高出力の固体推進エンジン(固形燃料を使用し、一度着火すると停止できないタイプのロケットエンジン)と先進的なアビオニクスシステム(航空機や宇宙船に搭載される電子機器やソフトウェアの総称)を特徴とする。第1段にはP120C(ピーイチニーゼロシー:欧州のロケット「アリアン6」の固体ブースターにも使われる強力な固体燃料ロケットエンジン)固体燃料ロケットエンジンを使用する。P120Cは、アリアン6ロケットの固体ブースターとしても利用される。第2段にはZefiro 40(ゼフィロフォーティ:Vega-Cロケットの第2段に使われるエンジン)、第3段にはZefiro 9(ゼフィロナイン:Vega-Cロケットの第3段に使われるエンジン)が使われる。第4段のAVUM+(アブムプラス:Vega-Cロケットの最終段で、衛星を精密な軌道に投入するために複数回再着火できるエンジンモジュール)は、複数回の再着火が可能な上段モジュールであり、ミッションの柔軟性を高める。

### 初回飛行の成功と2回目飛行の失敗

Vega-Cは、2022年7月13日に初回飛行(ミッションVV21)を成功させた。この飛行では、イタリア宇宙機関(ASI)の科学衛星LARES-2(液体原子核科学実験)と、複数のCubeSat(キューブサット)を予定軌道に投入した。初回飛行の成功は、欧州の打上げ能力の強化を期待させるものだった。

しかし、2回目飛行(ミッションVV22)は、2022年12月21日に失敗した。フランス領ギアナのギアナ宇宙センターから打上げられたVV22ミッションは、打上げから約2分27秒後に異常を検知した。搭載されていたのは、エアバス・ディフェンス・アンド・スペースが開発した地球観測衛星Pléiades Neo 5(プレアデス・ネオ・ファイブ:地上を詳細に観測できる高性能な地球観測衛星)およびPléiades Neo 6(プレアデス・ネオ・シックス:地上を詳細に観測できる高性能な地球観測衛星)であった。

### 失敗原因の特定と是正措置

VV22ミッションの失敗を受け、欧州宇宙機関(ESA)とフランス宇宙機関(CNES)は共同でIndependent Enquiry Commission(ITA: 独立調査委員会)を設置した。ITAは、広範な調査を実施し、失敗原因を特定した。原因は、Vega-Cの第2段エンジンであるZefiro 40のノズル焼損(nozzle erosion)であると発表された。ノズル焼損とは、ロケットエンジンの排気ノズルが高温のガスによって過度に侵食される現象を指す。これはエンジンの性能低下や構造破壊につながる重大な問題である。

ITAの報告書は、ノズル焼損の根本原因が、製造プロセスにおける特定の材料特性と関連している可能性を指摘した。これに基づき、ITAはArianespaceと製造パートナーに複数の是正措置を勧告した。勧告された措置には、エンジンの設計見直し、製造プロセスの改善、品質管理体制の強化が含まれる。これらの措置を通じて、Vega-Cの信頼性を回復し、安全な飛行再開を目指す方針だとアリアンスペースは説明する。

### 欧州宇宙市場への影響と課題

Vega-Cの打上げ中断は、欧州の宇宙産業に大きな影響を与えている。特に、小型衛星市場において、欧州の衛星事業者や機関は、打上げサービスを確保する上で制約を受ける状況にある。世界の小型衛星市場は急速に拡大しており、低軌道への衛星コンステレーション(衛星群)構築が進む中で、信頼性の高い打上げ手段への需要は高まる一方だ。

このような状況下で、Vega-Cの運用中断は、欧州の自律的宇宙アクセスの確保という目標に影を落とす。アリアンスペースは、米国SpaceX(スペースX)やRocket Lab(ロケットラボ)など、世界の競合他社との厳しい競争に直面している。Vega-Cの信頼回復と運用再開は、アリアンスペースの事業戦略において最も重要な課題の一つと言える。打上げが中断する期間が長引けば、欧州の顧客が他地域のプロバイダーに流れるリスクが高まると市場関係者は見ている。

### 日本市場・日本企業への示唆

Vega-Cの事例は、日本の宇宙産業にとっても重要な示唆を含む。日本もH3ロケットやイプシロンSロケットなど、次世代の国産ロケット開発を進めている。これらのロケットは、国際的な打上げサービス市場で競争力を確立する必要がある。Vega-Cの失敗が示すように、ロケットの信頼性は市場競争力に直結する。単なる技術的成功だけでなく、継続的な安全運航と高い稼働率が求められる。

日本のロケット開発企業や衛星事業者にとって、今回の事例は、サプライチェーン全体にわたる品質管理の徹底の重要性を再認識させる。特に、基幹部品の製造プロセスにおける品質保証は、ロケット全体の信頼性を左右する。また、国際的な宇宙産業における競争激化は、日本のプレイヤーにもコスト競争力と技術革新の両立を求める。欧州の打上げ能力が不安定な時期は、日本の打上げサービスが潜在的な需要を取り込む機会ともなり得るが、そのためには高い信頼性と安定的な運用体制が不可欠である。国際協力や技術提携の可能性も、今後さらに検討されるべき分野と言えるだろう。

掲載元:Arianespace · 参照リンク

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