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QPS研究所——小型SAR衛星による準リアルタイム観測網の構築

Deep Space 編集部4分で読了

該当する宇宙スキル標準

NO.37 電源コンポーネント(パワーエレクトロニクス)設計・解析NO.28 熱/熱制御設計・解析NO.33 化学推進(液体燃料)システム設計・解析

ポイント解説

  • 1.天候や昼夜を問わず地表を可視化し、情報の空白地帯を無くす「宇宙のレーダーインフラ」。
  • 2.2025年5月期に売上高34.7億円(約2,313万ドル)と営業黒字化を見込む成長フェーズにあり、防衛省との大型契約が収益の柱となっている。
  • 3.SSS No.08。大手重工・電機メーカーのレーダー技術者が、量産化と商用データビジネスの最前線である同社へ移籍する事例が増加している。

九州大学発の宇宙ベンチャー、QPS研究所(iQPS)の事業分析。高分解能小型SAR衛星の技術的優位性、2028年に向けたコンステレーション構築計画、防衛・民生両面での市場展開、競合比較、および日本市場におけるJAXAとの連携状況を詳説。

企業概要

株式会社QPS研究所(以下、QPS研究所)は、九州大学での20年以上にわたる小型衛星開発技術を基盤として2005年に創業された宇宙ベンチャーである。福岡県福岡市に本社を置き、地場製造業と連携した「宇宙のシリコンアイランド九州」の形成を牽引している。同社は、天候や昼夜を問わず地表を観測可能な小型SAR(合成開口レーダー)衛星の開発・運用を主軸としている。2023年12月には東京証券取引所グロース市場への上場を果たした。同社の事業目的は、多数の衛星を連携させるコンステレーション(衛星群)を構築し、地球上の任意の地点をほぼリアルタイムで観測できる社会インフラを提供することにある。2028年度中に24機の衛星体制を確立し、平均10分間隔での観測を実現する計画を公表している。

コア技術とプロダクト

QPS研究所のコア技術は、独自の「大型展開式パラボラアンテナ」にある。このアンテナは、収納時にはコンパクトでありながら、宇宙空間で直径3.6mまで展開する能力を持つ。これにより、従来の小型衛星では困難であった高感度な電波の送受信が可能となり、100kg級の小型衛星でありながら、最高46cmという高い分解能(地表の物体を識別する能力)を実現している。プロダクトである「QPS-SAR」衛星は、1号機「イザナギ」から7号機「ツクヨミ-2」までがこれまでに打ち上げられている。特に6号機「アマテル-3」以降は、商用化に向けた改良型として位置づけられており、高精細な画像データの取得に成功している。また、衛星の軽量化により、複数の衛星を同一のロケットで打ち上げることが可能となり、コンステレーション構築のコスト効率を大幅に高めている。

資金調達と投資家

QPS研究所は、2023年12月の新規上場(IPO)を通じて公募増資を行い、約35億円(約2,333万ドル)を調達した。上場前の段階では、スカパーJSAT株式会社、株式会社INCJ(旧産業革新機構)、スパークス・グループ株式会社が運営する宇宙フロンティア基金などから資金を調達している。2025年5月期の通期業績予想では、売上高34.7億円(約2,313万ドル)、営業利益5.4億円(約360万ドル)を掲げており、衛星データ販売の本格化による黒字化を計画している。調達した資金は、主に8号機以降の衛星製作費および打ち上げ費用、ならびに地上局ネットワークの拡充に充当される。特定の単一顧客に依存せず、防衛省やJAXAなどの官需に加え、民間のインフラ監視や災害対策需要の取り込みを図っている。

競合環境

SAR衛星分野では、世界的に激しい開発競争が展開されている。主な競合として、米国のCapella Space(カペラ・スペース)やフィンランドのICEYE(アイスアイ)が挙げられる。これらの企業は先行してコンステレーションを構築しており、既に商用サービスを展開している。国内においては、株式会社Synspective(シンスペクティブ)が直接的な競合となる。QPS研究所の優位性は、大型アンテナによる高いS/N比(信号対雑音比)と、九州の精密加工技術を活かした低コストな製造プロセスにある。また、日本政府による「宇宙安全保障構想」に基づき、防衛省が小型衛星コンステレーションの活用を推進していることは、同社にとって強力な追い風となっている。競合他社が大型化・高機能化へ舵を切る中で、同社は「軽量・高分解能・低コスト」のバランスを追求する戦略を採っている。

日本市場との関連

QPS研究所は、日本の安全保障および防災戦略において重要な役割を担っている。防衛省とは「小型衛星コンステレーションの防衛利用に向けた実証」に関する契約を締結しており、有事や災害時における即応性の高い情報収集手段としての期待が大きい。また、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の「革新的衛星技術実証プログラム」にも採択されており、日本の宇宙産業の技術底上げに寄与している。民間市場では、九州電力株式会社とのインフラ点検における連携や、損害保険会社との災害被害把握に関する実証実験を進めている。同社の成長は、部品サプライヤーである九州の製造業各社への波及効果も大きく、地方創生と先端技術開発が両立したモデルケースとなっている。今後は、取得した画像データを解析するAI技術を持つ国内スタートアップとのエコシステム形成が、市場拡大の鍵となる。

出典

- 株式会社QPS研究所「事業計画及び成長可能性に関する事項」(2023年12月6日発表)

- 株式会社QPS研究所「2024年5月期 第3四半期決算短信」(2024年4月15日発表)

- 株式会社QPS研究所 公式ウェブサイト(https://i-qps.net/)

掲載元:QPS研究所(QPS研究所 分析) · 参照リンク

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