スタートアップ
アクシオム、民間宇宙ステーションの製造加速 伊タレスと連携
該当する宇宙スキル標準
ポイント解説
- 1.宇宙インフラが「公共財」から「民間サービス」へ移行する構造転換の象徴である。
- 2.2030年のISS退役までに代替拠点を確保すべく、NASAはCLD予算を増額し、アクシオム等の民間勢に開発を急がせている。
- 3.SSS No.02(宇宙システムアーキテクチャ)。自動車やプラントの高度な溶接・品質管理技術は、民間宇宙ステーション製造に直結する有望スキルである。
アクシオム・スペースが民間宇宙ステーション「Hab-1」の構造体製造を加速。伊タレスとの提携や日本企業への影響、2030年のISS退役を見据えた最新の進捗を日経視点で解説。である調。
米宇宙スタートアップ(新興企業)のアクシオム・スペースは、世界初の民間宇宙ステーション(商業用軌道拠点)の製造を加速する。同社はイタリアのタレス・アレーニア・スペース(TAS)と、初号モジュール(一番最初の部分)の主要構造体の製造工程を次の段階へ進めた。2030年の国際宇宙ステーション(ISS)退役を見据え、民間による宇宙利用インフラ(宇宙空間で活動するための設備や基盤)の構築を急ぐ。
中核構造体「PPTM」の溶接が完了
アクシオムが開発を進めるのは、ISSの後継を担う「アクシオム・ステーション」である。その中核となるのが、初号居住モジュール(一番最初の、人が滞在する区画)「ハブ・ワン(Hab-1)」だ。イタリアのトリノにあるTASの工場では、同モジュールの主要圧力試験モジュール(PPTM:宇宙空間の真空に耐えるための気密性・耐久性を試験する主要な構造体)の製造が進んでいる。
公式発表によると、PPTMの円筒形セクションの溶接と加工が完了したという。これはモジュールの骨格となる「プライマリー・ストラクチャー(主要構造体:モジュールの土台となる骨格部分)」の完成に向けた大きな節目である。TASはISSの居住スペースの約50%を製造した実績を持ち、その技術を民間ステーションに転用する。
ハブ・ワンの内部容積は、ISSの既存モジュール(すでに設置されている区画)である欧州実験棟「コロンバス」(ISSに接続されている欧州宇宙機関の実験施設)を上回る規模となる。TASは現在、4つの放射状隔壁(中心から放射状に伸びる仕切り壁で、構造を支え、内部を区切る役割)の取り付け作業を進めている。これらの部品は、将来的に他のモジュールやドッキングポート(宇宙船や他のモジュールと接続するための接合部)を接続するための基盤となる重要部位だ。
2020年代後半の打ち上げに向けた供給網構築
アクシオムは、米航空宇宙局(NASA:アメリカの宇宙開発を担当する政府機関)からISSへの商業モジュール結合(民間企業が製造した区画をISSに接続すること)に関する独占権を取得している。同社は2026年後半の初号機(一番最初の機体)打ち上げを目指し、垂直統合型(製品の企画から開発、製造、販売までを一貫して自社で行うビジネスモデル)の製造体制を強化する。トリノで製造された構造体は、米テキサス州ヒューストンの本社施設に輸送される。
ヒューストンの自社工場では、生命維持装置(ECLSS:宇宙飛行士が生存するために必要な空気、水、温度などを管理する装置)や電力システム、熱制御システムの組み込みを行う。アクシオムはこれまでに、NASAから総額約1億4000万ドルの契約を獲得している。これはNASAが進める「商業低軌道開発(CLD)プログラム」(NASAが民間企業と協力して、地球に近い軌道での宇宙開発を促進する計画)の一環であり、官民連携(政府機関と民間企業が協力して事業を行うこと)の象徴的な事例といえる。
競合するブルー・オリジンやボイジャー・スペースの計画と比較し、アクシオムは「ISSへの直接結合」という点で優位に立つ。既存のインフラを活用することで、打ち上げ初期の運用リスク(実際に稼働させる上での不具合や問題が発生する可能性)を低減できるためだ。製造加速の背景には、2030年のISS運用終了までに代替拠点を完成させるという強い時間的制約がある。
日本企業への波及効果と三井物産の参画
アクシオムの事業進展は、日本の宇宙産業(宇宙開発や宇宙利用に関連する製品・サービスを提供する産業)にとっても無視できない影響を与える。日本企業では三井物産がアクシオムに出資し、戦略的パートナーシップ(長期的な協力関係を築き、互いの経営戦略に資する提携)を締結している。同社は日本国内の企業に対し、民間宇宙ステーションの利用提案や機器供給の窓口を担う役割が期待される。
これまでJAXA(宇宙航空研究開発機構:日本の宇宙開発・研究を行う国立研究開発法人)が主導してきた「きぼう」日本実験棟(ISSに接続されている日本の実験施設)の運用ノウハウ(実際の業務を通して培われた知識や技術、経験)も、民間移管(国や公共機関が担っていた業務や施設を民間企業に移すこと)の対象となる。三菱電機やIHIエアロスペースなど、ISS関連機器を手掛けてきた国内メーカーにとって、新たな納入先となる可能性がある。特に、民間ステーション向けの高度な生命維持技術(宇宙空間で人が生存するために必要な環境を維持する技術)やロボットアーム技術(宇宙空間で物を掴んだり移動させたりするロボットの腕に関する技術)には強い需要が見込まれる。
また、日本人宇宙飛行士の活動拠点も、将来的に民間ステーションへ移行する。官主導から民主導への転換は、宇宙ビジネス(宇宙空間を利用したサービスや製品を提供する事業)の参入障壁(新規企業が市場に参入するのを妨げる要因)を下げ、製薬や材料開発などの非宇宙企業(これまで宇宙関連事業に携わってこなかった企業)による利用を促す。日本市場においては、地上産業との連携による新たな宇宙利用サービス(宇宙空間の設備やデータを活用して提供されるサービス)の創出が急務となる。
地上試験と最終組み立てへの展望
今後の焦点は、トリノからヒューストンへの構造体輸送と、その後のシステム統合試験(複数の部品やサブシステムを一つに組み合わせて、全体として正しく機能するかを確認する試験)に移る。アクシオムは、地上での圧力試験を数カ月以内に開始する計画だ。極限環境である宇宙空間での長期運用に耐えうる気密性(外部の空気や液体が内部に入り込んだり、内部のものが外部に漏れたりしない性質)と耐久性(外部からの力や環境の変化に耐え、性能を維持できる性質)を、厳密な試験データによって証明する必要がある。
残された課題は、打ち上げコストの抑制と、持続可能な収益モデル(企業がどのように売上を上げ、利益を生み出すかの仕組み)の確立である。1モジュールあたりの製造・打ち上げコストは数億ドルに達すると推定される。政府による利用契約だけでなく、民間企業による研究開発や宇宙旅行者の受け入れをいかにスケールさせるか(事業の規模を拡大すること)が、事業成功の鍵を握る。
アクシオムのマイケル・サフレディーニCEOは「我々は宇宙における経済圏(特定の地域や分野において、経済活動が活発に行われる範囲や仕組み)の基盤を作っている」と強調する。ISSという「公的な実験場」が消滅する前に、民間が自立したインフラを提供できるか。トリノでの溶接作業の進展は、人類の宇宙滞在が「国家プロジェクト」から「ビジネス」へ変質する過程を象徴している。
出典
掲載元:Axiom Space(公式) · 参照リンク
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