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米ストーク、8.6億ドルの巨額調達 完全再使用「Nova」26年打ち上げへ

Deep Space 編集部5分で読了

該当する宇宙スキル標準

NO.9 プロジェクト統合マネジメントNO.30 流体制御設計・解析

ポイント解説

  • 1.ロケットの「使い捨て」時代が終焉し、二段目まで含めた完全再使用が宇宙ビジネスの参入障壁および競争力の決定要因となる。
  • 2.8.6億ドルという巨額調達は、スペースXによる独占市場を打破する第2の勢力として、機関投資家が同社のFFSC技術と歴史的射場確保を高く評価した証左である。
  • 3.SSS No.03(推進システム設計)が必要不可欠。自動車の排熱管理や重工業の極低温弁技術を持つ技術者が、米国の宇宙メガベンチャーへ直接参画する機会が拡大している。

米宇宙スタートアップのストーク・スペースが1300億円超を調達。完全再使用ロケット「Nova」を2026年に打ち上げへ。独自のFFSCエンジンと再使用技術で宇宙輸送市場の激変を狙う。

米宇宙ベンチャーのストーク・スペース(ワシントン州)は、シリーズD資金調達の総額を8億6000万ドル(約1300億円)に拡大した。同社が開発する完全再使用型ロケット「Nova(ノバ)」の初飛行は2026年内を目指す。一段目と二段目の双方を回収・再使用する設計は、米スペースXの超大型ロケット「スターシップ」に続く。ケープカナベラル宇宙軍基地の第14発射施設(SLC-14)を拠点とし、低コストな宇宙輸送サービスの確立を急ぐ方針である。

独自のフルフロー段燃焼サイクルを搭載

ノバの最大の特徴は、一段目と二段目の両方を完全に再使用する設計にある。現行の主力ロケットであるスペースXの「ファルコン9」は、二段目が使い捨てである。これに対し、ノバは全ての機体を回収し、航空機のような高頻度な運用を目指す。同社が開発する「Saber(セイバー)」エンジンは、フルフロー段燃焼サイクル(FFSC)を採用した。これは燃料と酸化剤をそれぞれ完全にガス化して燃焼させる高度な方式である。

FFSCはエンジンの出力を高めやすく、再使用時の耐久性にも優れる。現在、この方式を実用化しているのはスペースXの「ラプター」エンジンのみとされる。ノバの推進剤には、液化天然ガス(LNG)の主成分であるメタンと液体酸素の「メタロックス」を使用する。メタロックスは従来のケロシンと比較して、エンジン内部に煤が溜まりにくい性質を持つ。この特性は、機体を洗浄せずに再飛行させるために不可欠な要素である。

二段目の再進入技術にも独自性がある。ノバの二段目は、機体底部に冷却材を循環させる「再生冷却式(リジェネレイティブ・クーリング)」の熱遮蔽板を備える。これにより、従来のスペースシャトルやスターシップが使用する耐熱タイルを不要とした。タイル剥がれによる事故リスクを低減し、メンテナンス時間を大幅に短縮する狙いがある。同社は2023年、二段目のプロトタイプによる垂直離着陸(VTVL)試験に成功している。

総額1300億円超の資金が支える開発加速

今回のシリーズD拡張により、同社の累計調達額は8億6000万ドルに達した。これは、先行するロケットベンチャーの米レラティビティ・スペースが実施したシリーズE(6億5000万ドル)に匹敵する規模である。資金調達のリード投資家は明らかにされていないが、ブラックロックなどの既存株主が支援を継続している。宇宙産業への投資が厳選される中、1000億円を超える調達は異例の規模と言える。

巨額資金の主な使途は、ノバの実機製造と発射施設の整備である。同社はケープカナベラル宇宙軍基地のSLC-14の使用権を米宇宙軍から獲得した。SLC-14は、1962年にジョン・グレン氏が米国人として初めて地球周回軌道に到達した歴史的な発射場である。現在はストーク・スペースの専用施設として改修が進んでいる。射場の確保はロケット開発のボトルネックとなることが多く、自社拠点の確立は事業継続性を高める。

市場環境も同社を後押しする。現在、衛星の打ち上げ需要は急増しており、スペースXの独走状態が続く。打ち上げ価格の高騰や待機期間の長期化が、衛星オペレーターにとっての課題となっている。中型ロケット市場において、完全再使用による低価格化を掲げるノバへの期待は高い。同社はノバの打ち上げ能力を、地球低軌道(LEO)に最大5トンと設定し、中小型衛星の網羅的な需要を取り込む構えである。

日本企業への示唆と国内市場の課題

ストーク・スペースの躍進は、日本の宇宙産業にとっても無視できない脅威となる。現在、日本が開発を進める「H3」ロケットや、開発中の「イプシロンS」は、一段目を含めて使い捨てが前提である。三菱重工業やJAXA(宇宙航空研究開発機構)は再使用型の研究を進めているが、実用化の時期は2030年代以降となる見通しである。2026年にノバが稼働すれば、コスト競争力で日本のロケットが大きく引き離されるリスクがある。

一方で、国内サプライヤーにとっては商機となる可能性もある。FFSCエンジンや高圧配管、極低温バルブなどの高度な部品製造において、日本企業が培った素材技術や加工技術への需要は高い。実際に、米国の宇宙ベンチャーが日本の町工場の技術を採用する事例も増えている。日本の部品メーカーは、完成品ロケットの輸出だけでなく、米国の有力スタートアップへの供給網(サプライチェーン)参入を急ぐべきである。

また、キャリア形成の観点からも示唆に富む。同社には米ブルーオリジンやスペースXの出身者が多く在籍するが、自動車や航空機などの異業種エンジニアも積極的に採用している。特に、エンジン冷却や流体制御の技術は、日本の重工業や自動車メーカーの技術者が即戦力となり得る領域である。宇宙専業ではない技術者が、グローバルな宇宙開発の最前線へ進出する経路が明確になりつつある。

2026年内の初飛行に向けた残課題

今後の焦点は、2026年という野心的な目標を実現できるかにある。フルフロー段燃焼サイクルエンジンの実機での安定稼働は、極めて難易度が高い。スペースXのラプターでさえ、開発から安定運用まで数年を要した経緯がある。また、二段目の再突入時の熱制御が計画通り機能するかも未知数である。2025年内には、エンジンの全負荷燃焼試験や一段目の地上試験が予定されており、その成否が試金石となる。

規制当局である連邦航空局(FAA)からの打ち上げライセンス取得も課題となる。完全再使用型ロケットは、一段目と二段目の双方が地上に帰還するため、地上への影響範囲が広い。スターシップの試験飛行においても、環境規制や安全対策で遅延が生じている。ストーク・スペースがこれらの障壁を迅速に突破できるかが、2026年デビューの鍵を握る。宇宙輸送のパラダイムシフトが、着実に近づいているのは間違いない。

出典

- Stoke Space Technologies Extends Previously Announced Series D Financing to $860 Million

掲載元:Stoke Space(公式) · 参照リンク

推定読了 5

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