スタートアップ

Sierra Space——宇宙往還機と居住モジュールによる低軌道経済圏の構築

Deep Space 編集部4分で読了

ポイント解説

  • 1.宇宙の輸送(タクシー)と居住(ホテル)を垂直統合で提供するインフラプラットフォーマーである。
  • 2.2023年のシリーズBで2.9億ドルを調達し、評価額は53億ドルに到達、三菱商事や兼松など日本企業が戦略投資家として参画している。
  • 3.SSS No.05。航空宇宙エンジニアに加え、地上インフラ管理や物流の専門家が宇宙ステーションの運用・保守へ転身する経路が具体化している。

Sierra Spaceの事業戦略、コア技術、資金調達を専門アナリストが分析。宇宙往還機Dream Chaserや拡張式居住モジュールLIFE、日本企業との提携状況まで詳説。

企業概要

Sierra Space(シエラ・スペース)は、米国コロラド州を拠点とする宇宙インフラ企業である。2021年4月、大手宇宙・防衛企業であるSierra Nevada Corporation(SNC)の宇宙部門が分社化して設立された。同社は「地球上の生命を救うために宇宙に文明を築く」というビジョンを掲げ、宇宙往還機(スペースプレーン)や拡張式居住モジュールの開発を通じて、国際宇宙ステーション(ISS)退役後のポストISS時代における低軌道(LEO)経済圏の主導権確保を目指している。同社はNASAとの間で、ISSへの貨物輸送を行う「Commercial Resupply Services-2(CRS-2)」契約を締結しており、民間企業として独自の輸送・居住手段を垂直統合で提供できる稀有な存在である。

コア技術とプロダクト

同社の核となるプロダクトは、宇宙往還機「Dream Chaser(ドリーム・チェイサー)」と拡張式居住モジュール「LIFE(Large Integrated Flexible Environment)」である。Dream Chaserは、スペースシャトルと同様に滑走路への着陸が可能な再利用型宇宙船である。従来の垂直着陸型カプセルと比較して、着陸時の衝撃(G)が1.5G程度と低く、科学実験試料や精密機器の回収に適している。また、無毒性の推進剤を使用しているため、着陸後すぐに機体へ接近できる運用上の利点を持つ。貨物型の「DC-100」は、最大約5,500kgの物資をISSに輸送可能である。一方、LIFEは高強度繊維を用いた拡張式構造を採用しており、打ち上げ時にはコンパクトに収納され、軌道上で膨張することで広大な居住空間を創出する。2024年には、NASAの規定を上回る内圧破裂試験に成功し、その安全性を証明した。これらの技術を組み合わせ、Blue Origin(ブルー・オリジン)らと共同で民間宇宙ステーション「Orbital Reef(オービタル・リーフ)」の開発を進めている。

資金調達と投資家

Sierra Spaceは、宇宙ベンチャーとして史上最大級の資金調達を実施している。2021年11月のシリーズAラウンドでは、General Atlantic、Coatue、Moore Strategic Venturesなどが主導し、14億ドルを調達した。この時点での評価額は45億ドルに達した。さらに2023年9月には、シリーズBラウンドで2億9,000万ドルを追加調達した。このラウンドには、日本の三菱商事、兼松、東京海上日動火災保険、および三菱UFJ銀行が参画しており、評価額は53億ドルまで上昇した。これらの資金は、Dream Chaserの初号機「Tenacity」の製造完了と、LIFEモジュールの実証試験、および将来の有人宇宙飛行計画の推進に充てられている。

競合環境

宇宙輸送分野における直接的な競合は、SpaceXの「Dragon」およびBoeingの「Starliner」である。しかし、滑走路着陸が可能なDream Chaserは、カプセル型にはない独自の優位性を持つ。宇宙ステーション開発においては、Axiom Space(アキシオム・スペース)やVast(ヴァスト)が競合となる。Axiom SpaceはISSへのモジュール増設から開始する段階的アプローチを採る一方、Sierra SpaceはOrbital Reefを通じて、最初から大規模な商業利用を想定したプラットフォームを構築する戦略を採っている。また、Northrop Grumman(ノースロップ・グラマン)などの既存の防衛大手も競合となり得るが、Sierra SpaceはSNC時代からの30年以上にわたる宇宙開発実績と、スタートアップ的な機動力を併せ持つ点で差別化を図っている。

日本市場との関連

Sierra Spaceは日本市場を極めて重視しており、複数の戦略的提携を締結している。2022年2月、兼松および大分県と、Dream Chaserの日本国内における着陸拠点として大分空港を活用するための検討に関する覚書(MOU)を締結した。大分空港は3,000メートルの滑走路を有し、アジアにおける宇宙往還機のハブ拠点となる可能性がある。2022年12月には、JAXA(宇宙航空研究開発機構)ともDream Chaserの活用に向けた協力に合意した。さらに2024年には三菱商事と戦略的パートナーシップを締結し、Orbital Reefの日本における事業開発や、LIFEモジュールの日本企業による活用を推進している。これにより、日本の製造業やライフサイエンス企業が、Sierra Spaceのインフラを通じて宇宙環境を利用する道が開かれつつある。

出典

- Sierra Space Official Press Release (2021-2024)

- NASA Commercial Resupply Services Contract Documents

- Sierra Space Series B Funding Announcement (2023/09/26)

- Mitsubishi Corporation Strategic Partnership Announcement (2024/02/27)

掲載元:Sierra Space(Sierra Space 分析) · 参照リンク

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