スタートアップ

Pale Blue、水推進機で小型衛星の軌道制御を革新

Deep Space 編集部5分で読了

該当する宇宙スキル標準

NO.9 プロジェクト統合マネジメントNO.30 流体制御設計・解析

ポイント解説

  • 1.水という安全・安価な燃料への転換により、衛星運用のボトルネックである推進系の導入障壁を根本から解消する。
  • 2.累計23億円の民間調達に加え、JAXAから最大27億円の補助金を得ることで、希薄な資本市場に依存せず大規模な量産投資を可能にしている。
  • 3.SSS No.14(推進系スペシャリスト)として、物理学と工学の境界で新市場を創出する高度な専門性が求められる。

株式会社Pale Blueは、水を推進剤とした小型衛星用エンジンを開発する東京大学発スタートアップ。高い安全性と低コストを実現し、JAXAやソニーとの実証実績を保有。累計調達額と政府支援で量産体制を構築中。

企業概要

創業の背景とミッション

株式会社Pale Blue(ペールブルー)は、2020年4月に東京大学大学院工学系研究科の浅川純氏と小泉宏之氏らによって設立された東京大学発の宇宙スタートアップである。同社は「水を推進剤(プロペラント)とした持続可能な宇宙推進機」の開発をミッションに掲げている。創業の背景には、小型衛星市場の急拡大に伴う推進システムの需要増加と、従来の化学燃料が抱える毒性や高コストという課題がある。浅川氏らは大学での研究成果を社会実装することで、宇宙空間における移動の自由度を高め、持続可能な宇宙開発の実現を目指している。

同社の名称は、1990年にボイジャー1号が撮影した地球の姿「ペール・ブルー・ドット(淡く青い点)」に由来する。これは、宇宙から見た地球の尊さと、その持続可能性を守るという同社の姿勢を象徴している。水という、地球上に豊富に存在し、かつ環境負荷の低い物質を燃料に選んだことは、このビジョンと直結している。

経営陣

代表取締役の浅川純氏は、東京大学で博士号を取得後、同大学の特任助教を経て起業した。小型衛星用推進系の研究において国際的な評価を得ており、技術開発と経営の両面を統括する。取締役の小泉宏之氏は、東京大学大学院新領域創成科学研究科の准教授であり、プラズマ工学および推進工学の権威である。小泉氏はJAXAの「はやぶさ2」プロジェクトにも参画した実績を持ち、同社の技術的バックボーンを支えている。このアカデミアに根ざした強力な技術基盤が、同社の最大の強みとなっている。

コア技術とプロダクト

技術概要

Pale Blueのコア技術は、水を推進剤として利用する電気推進システムである。従来、衛星の推進機にはヒドラジンなどの毒性燃料や、キセノンなどの高価な希ガスが使用されてきた。これに対し、同社は水を燃料とすることで、以下の3つの優位性を実現している。第一に安全性である。水は非燃焼性・非毒性であるため、地上での取り扱いや輸送が容易であり、打ち上げ時の爆発リスクを排除できる。第二に低コスト化である。高価な特殊燃料に比べ、水は極めて安価であり、地上設備や法規制対応のコストも大幅に削減可能となる。第三に持続可能性である。水は宇宙空間においても調達の可能性があり、将来的な宇宙資源利用(ISRU)との親和性が高い。

同社は、水を蒸気として噴射する「水レジストジェット」と、水をプラズマ化して加速する「水イオンエンジン」の2種類の技術を保有している。これにより、短時間で大きな推力を必要とする軌道投入から、長期間の微細な軌道維持まで、幅広いニーズに対応するポートフォリオを構築している。

プロダクトライン

主力製品の一つである「水レジストジェット推進機」は、すでに宇宙空間での実証を完了している。2023年、ソニーグループの人工衛星「EYE」に搭載された同推進機は、軌道上での噴射に成功し、衛星の軌道を上昇させた。これは、水を用いた推進機が実用段階にあることを世界に示した重要なマイルストーンとなった。

また、開発中の「水イオンエンジン」は、より高い比推力(燃費効率)を特徴とする。これは、数百基から数千基の衛星を運用する衛星コンステレーションにおいて、衛星の寿命を延ばし、運用コストを最適化するために不可欠な技術である。さらに、これらを組み合わせた統合推進システムや、より大型の衛星に対応するスケーラブルなモデルの開発も進めている。

資金調達と投資家

調達ラウンド

Pale Blueは、創業以来着実に資金調達を重ねている。2020年10月のシードラウンドでは、インキュベイトファンドを引受先として約3億円(200万ドル相当)を調達した。続く2022年10月のシリーズAラウンドでは、インキュベイトファンドに加え、三井住友海上キャピタル、スパークス・グループが運営する宇宙フロンティアファンド、ジャフコグループなどから約10億円(667万ドル相当)を調達した。

2023年10月には、B Dash Venturesをリード投資家とするシリーズBラウンドでさらに約10億円を調達し、累計調達額は約23億円に達した。この資金は、推進機の量産体制の構築と、海外展開の加速に充てられている。また、同月にはJAXAのSBIRフェーズ3に採択され、最大27億円の補助金交付が決定した。これにより、民間資金と政府支援の両輪で開発を加速させる財務基盤を確立した。

主要投資家

同社の投資家構成は、日本の有力VCが中心となっている。シード期から支援を続けるインキュベイトファンドは、同社の事業戦略構築に深く関与している。また、宇宙フロンティアファンド(スパークス・グループ)の参画は、日本の宇宙産業エコシステムにおける同社の重要性を示唆している。シリーズBで加わったB Dash Venturesは、同社のグローバル市場での成長可能性を評価している。

競合環境

主要競合

グローバル市場における競合としては、ニュージーランドおよびオランダを拠点とするDawn Aerospaceや、米国のBradford Space、Accion Systemsなどが挙げられる。Dawn Aerospaceは、過酸化水素と窒素を用いた「グリーン推進剤」で実績を持つ。Bradford Spaceは、水を用いた推進機「Comet」を展開しており、Pale Blueと直接的な競合関係にある。

差別化ポイント

Pale Blueの差別化ポイントは、水プラズマ技術による「高比推力」と「システムの簡素化」の両立にある。競合他社の水推進機が多くの場合レジストジェット方式に留まる中、同社はイオンエンジンまで水で実現する技術力を有する。また、東京大学との共同研究による知財ポートフォリオは、他社の追随を許さない参入障壁となっている。さらに、日本国内のJAXAやソニーといった強力なパートナーとの実証実績は、国際市場における信頼性獲得において大きなアドバンテージとなっている。

日本市場との関連

日本拠点・提携

同社は千葉県柏市の「柏の葉キャンパス」エリアに本社および開発拠点を置く。この地域は東京大学のキャンパスに隣接しており、優秀なエンジニアの確保や大学の設備利用において有利な環境にある。また、国内の部品メーカーとの連携を強化しており、推進機の基幹部品の国産化を進めている。

JAXA・政府との関係

日本政府およびJAXAとの関係は極めて強固である。JAXAの「宇宙開発利用加速化戦略プログラム」への採択に加え、経済産業省主導のSBIR制度において大型の資金支援を受けている。これは、政府がPale Blueの技術を、日本の宇宙安全保障および産業競争力強化のための戦略的技術と位置づけていることを示している。同社はJAXAの革新的衛星技術実証プログラムにも参画しており、官民一体となった技術開発を推進している。

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**出典**: JAXA(宇宙航空研究開発機構) / JAXA宇宙科学研究所(ISAS) / Pale Blue 公式情報

**関連する宇宙スキル標準(SSS)**: No.9(プロジェクト統合マネジメント)、No.30(流体制御設計・解析)

掲載元:Deep Space 編集部 (Pale Blue 分析) · 参照リンク

推定読了 5

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